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(印傳屋上原勇七) |
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鹿革の漆付け技法を400年継承する老舗皮革製品ブランド 時は天正10年、1585年。織田信長が本能寺の変で倒れ、羽柴秀吉が覇権に向けて走り出した戦国時代の最中、1つの革工芸技法が生み出された。上原勇七が創案したといわれる甲州印伝(いんでん)である。 印伝とは装飾した鹿革のこと。17世紀ごろ、インドから「応帝亜(インデヤ)革」と呼ばれた装飾革が日本に伝わり、印度伝来を略して「印伝」と呼ばれるようになった。戦国時代には武将の甲冑や武器に、江戸時代には巾着や財布などに使われ、実用性と“粋”を兼ね備えたものとして庶民に親しまれた。 甲州は古くから印伝に欠かせない鹿革と漆の産地として知られていた。上原勇七は独自に鹿革に漆付けする技法を考案し、甲州印伝「印傳屋」を創業。その技法は上原家を継ぐ家長「勇七」にのみに代々伝えられ、現在13代目を数える。1987年には経済産業大臣指定伝統的工芸品の認定を受け、名実ともに日本を代表する伝統的な皮革製品となっている。 職人の技術と経験が結集し3つの伝統技法 400年以上の悠久の歴史を越えて継承されてきた甲州印伝。印傳屋は原皮調達から製造、販売まで一貫して手掛けることにこだわり、それは熟練の職人達に支えられてきた。甲府の本社工場には職人を中心に40名が在籍。染色、裁断、柄付け、縫製・仕上げ、検品の5つの製造工程に分かれてものづくりに当たる。 原皮は明治以降主流になっている最高級の中国産鹿皮を仕入れ、各製品に適したなめしを国内タンナーと共同で行う。それを本社工場に持ち込みドラム染色する。色は黒、紺、茶、エンジ、ワインの5つ。染め上がった一枚革は良質な部分を選び、型紙に合わせて裁断される柄付けに移る。 柄付けは印伝屋の中核となる独自技法が集約されている重要な工程。職人の高い技術と豊富な経験が要求される。技法は漆付け、更紗(さらさ)、燻(ふす)べ、で3つある。 代表的な技法の漆付けは、鹿革の上に手彫りされた和紙の型紙を重ね、その上からヘラを使って漆を刷り込む。型紙からはがすと文様がつき、数日間かけて乾燥させて仕上げる。「漆の扱いは難しく経験が必要です。均一に、きれいな光沢を出すには最低でも5年以上経たないと一人前とは言えません」と取締役総務部長の出澤忠利さんは話す。一色ごとに型紙を変えて数種類の色を重ねていく更紗も同様だ。 煙で文様を付ける燻べは、「家伝の秘法」とされてきた技法。タイコ(筒)に鹿革を貼り、藁と松根を焚いた煙と松脂でいぶして、黄褐色から褐色の文様を付ける。熟練の職人だけができるもので、これも熟練の技術が必要とされる。 職人は漆なら漆、燻べなら燻べという具合に、1つの技法だけに集中して専門性を高める体制にしているという。「ほんのちょっとした感覚が、最終的な仕上がりに大きく影響する」ためだ。 柄付けが終わった後、小物からバッグまで型紙に合わせて縫製。本社工場だけでなく、全国の熟練職人の協力を得て、製品化していく。そして最後に厳しく検品し、「印」の字が入ったブランドマークのシールを貼って店頭に届けられる。 親子数世代で使い継ぐ 上顧客が6万人 商品は巾着袋にはじまり名刺入れ、財布、携帯ケースといった小物類全般とバッグを展開。「もともとは小物だけだったが、昭和30年ごろから着物に合わせる手提げ袋を製作しハンドバッグも作るようになっていった」。 どの製品でも強く印象付けられるのが、多彩な和柄だ。青海波、とんぼ、小桜、菖蒲など江戸小紋にもあるさまざまな古典柄があり、見る者を飽きさせない。同社はこうした柄を数百種類も蓄積して製品に反映させており、ペイズリーや音符など新しい創作柄の開発も行っている。 価格は大きさや仕様によって多岐にわたるが、小物で5000〜2万円、バッグで3〜6万円の品ぞろえが厚い。新製品の開発は年に1回、毎年6月に東京都内で展示会を開き取引先に披露している。 伝統と歴史を守り続けてきた印傳屋上原勇七(山梨・甲府市、http://www.inden-ya.co.jp)。なぜ長寿企業となることができたのか。出澤さんは「メーカーでありながら直営店を3店舗持ち、常にお客様と向き合いながら時代に合わせて変化させてきたから」と力を込める。 現在、直営店は甲府本店、東京・南青山、大阪・心斎橋の3店舗。来店客はリピーターが多く、親子数世代にわたって使い続ける上顧客も6万人に上る。全体の70%が30〜70台の女性。値引き販売は一切しないが、何十年も使ってもらえるよう修理に責任を持ち、顧客一人ひとりの要望に合わせて提供する「あつらえの心」が製品の進化につながっている。 一方で、異業種とのコラボレーションにも積極的。3年ほど前から始めた、サンリオのキャラクター「ハローキティ」柄を採用した財布の限定販売もその1つだ。既存客層とはまったく異なる新しい客層から好反応を得て、認知向上を図っている。伝統に甘んじることなく新しいことに挑戦していくことが、“長寿”の秘訣のようだ。 目下、バッグ専門店や百貨店への卸展開が伸び悩む中、新たに親和性の高い靴の専門店に向けた卸展開を模索し始めている。「印伝を扱うことで今までにない新しいお客様を取り込むことができるはず」と出澤部長。地域密着した接客型の靴専門店に向けた展開を目指す。 |
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