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   池袋レディースキッド

        激戦区池袋に生きる日本一サイズが豊富な靴店


「日本一サイズが豊富な靴店」が売り

 JR池袋駅の東口より徒歩2分。明治通りをはさんで西武百貨店が目と鼻の先にたたずむロケーションにあって、女性客で賑わいの絶えない婦人靴の販売店がある。 1950年に池袋で誕生。以来約60年に渡って靴専門店として営業を続けてきた『池袋レディースキッド』だ。
 個人営業の小規模な靴専門店が年々減少してゆくなか、同社は他店にない特徴で生き残り続けている。その最たるものは「日本一サイズが豊富な靴店」を掲げ、実践していること。同店が扱っている靴のサイズは20センチから27センチまで。しかもそれぞれのサイズが日本一の品揃えになるように努めている。たとえば20センチと27センチだけでも各100種類以上、21.5センチや26センチではそれぞれ約300種類を揃えるという充実ぶりだ。
 一般の靴の小売店には真似のできない品揃えは、長年にわたる地道な企業努力にによるものだ。
 同店が一般サイズにはない、大小のイレギュラーサイズの靴を扱いはじめたのは1985年のこと。創業時の店名である「シューズキッド」を現『池袋レディースキッド』に変え、リニューアル開店したときにさかのぼる。
「いまの社長が、足に合うサイズの靴がなくて困っているお客様のためにやりはじめた。
30年くらい前のことですね。そのときは小さいのも大きいのも3点だか4点くらいしか扱っておらず、棚に1列ずつしか並べてなかった。そこから少しずつやってきて、年月をかけてここまで来たという感じです」と話すのは、同社専務取締役でシューフィッターも勤める小堤啓史さん。
 店舗は3フロアで、1階は22.5〜24センチの通常サイズの靴売り場に。2階が「モデルサイズ」と称した24.5〜27までの大きいサイズ、そして地下が「シンデレラサイズ」と称した20〜22センチまでの小さなサイズと、それぞれターゲット別に特化した構成になっている。
 売り物である小さなサイズ、大きなサイズの靴は、いまや同店の看板商品としてすっかり浸透してきている。2000年からはホームページを開設し、シンデレラサイズ・モデルサイズを扱っている店としてネット上でも告知をはじめた。これがきっかけとなり、いまでは利用客も北は北海道、南は沖縄と、全国的な広がりをみせている。顧客数はレギュラーサイズを求める層に比べて多くはないが、来店のときには“せっかく来たのだから”ということで、靴を2足、3足とまとめ買いしてゆくパターンが多い。固定客をがっちりとつかむと同時に、リピーターの増加にもつなげているわけだ。
 これらの靴は、おもにレディースキットとパートナーシップを組んでいるメーカーで生産されている。なかには同店の依頼に対し、最小ロット30足からでも受注に応じてくれるところもあるそうだ。この商品の供給力はなによりの強みでもある。

通常サイズは中心3千円台で差別化。

 売れ筋価格は、大きなサイズと小さなサイズの売り場のボリュームゾーンが平均で約1万2〜3千くらい。対して1階のレギュラーサイズは3千円とひじょうに低くなっている。
 イレギュラーなモノはどちらかといえばニッチな市場であり、需給のバランスをにらんだ上代の設定になる。小ロット生産で対応するものもあるため、コスト的な観点からもそれなりの価格をつける必要も出てくる。
 対して、一般的なサイズの靴では競合相手を意識せざるをえなくなる。池袋という都会ではなおさら。間近には西武百貨店という大規模ショッピング施設もある。こうした環境から、あえて1階の売り場は3千円クラスのケミカル系の靴に特化。他店とは顧客層がかぶらないような戦略をとっているのだ。
「昔は革靴もやっていたのですが、けっきょくは百貨店さんと同じ土俵で勝負するカタチになるので商売としては難しくなった。そこでケミカル中心に切り替えていったのが実状です。うちはうちでお客様に喜んでいただける商品を揃えていますが、百貨店にゆかれる方はハイブランドのセンスなど別のところに価値を置かれている。求められているものが違うわけです。レギュラーは3千円のものが主流で価格は安いですが、数の出方そのものが違う。そこで百貨店との棲み分けを図りながら商売を成立させているわけですね」
 レギュラーサイズの靴は安価なラインに抑えているとはいえ、販売姿勢には専門店ならではのこだわりがある。それは「売りっぱなしにはしない」ということ。店内で掲示もされているが、顧客が履きづらかったり、足に合わなかったりする場合、何回でも無料で調整に応じているのだ。
「靴が歩きにくかろうが、履きながらズレようが“安さとファッション性で買ってるんでしょう?”と。価格を考えたら不満があってもどこかで折り合いをつけないといけないようなイメージがあるかも知れません。でも靴の専門店としてはそうであってはならないと。ですから『ちょっとキツイから伸ばしたい』といえばやらせていだきますし、その他要望があればフォローさせていただいてます」
 顧客の信頼を勝ち取り、売上げの増加へとつなげる。たとえ安価な靴であっても、扱う以上はアフターフォローが重要なカギになるわけだ。
 

ネット販売では集客効果との相乗効果も狙う

 シンデレラサイズ・モデルサイズそれぞれの売り場は、他店にない特徴だけに安定的な顧客をつかんでいる。ただレギュラーサイズの靴にはない、別の課題もあるようだ。
 顧客は全国にいるため、販売にはインターネットの活用が欠かせない。しかしネット販売の世界では、Amazonなどの大手には叶わないところもある。「物流のシステムなどで負けているところは認め、別の価値観を出してゆかないと難しい」という。
「そこは各サイズでの品揃えを充実させるとか、お客様からの問合せ、ご相談に対して専門店ならではの経験と知識で適格に応えるとか。通販においても、“いかに靴屋としての接客ができるか”ということに尽きると思います。ただ商品を陳列するだけ、品数の豊富さを謳うだけ、というのではうちらしいイニシアチブの取り方ができなくなる。ただでさえ“一般的なサイズの売れ行きに比べて、平日にいったい何人のお客様がいらっしゃるのか?”という世界ですからね」
 このため同店では、ネット展開はその強みとなる部分を活かすようにした。ホームページはマスの媒体に比べて広告費を抑えられるうえ、見せ方次第では商品カタログの代わりにもなる。そこでWeb上で頻繁に新しい情報を発信することで、集客効果など別のメリットも得られるような戦略をとっているのだ。
「こういう商品を用意していますよ、ということを告知し続けながら、きちんと見ていただけるように工夫すると。それでお店への集客効果も高められます。“遠方のお客様もこれを機会に東京来たときに当店によってください”というアプローチにもなりますよね。通販と集客のための相乗効果が期待できるということです」
 遠来の顧客はいちど利用して気に入っても、そう何度も足が運べるわけではない。次はネットで注文するというパターンも多くなってくる。
「合わなければ返品交換を受け付けているので対応すると。遠方のお客様にはこうした形式でご利用いただいてます。遠くのお客様に対しても売りっぱなしにはしないということですね」

若者向きの品揃えが今後の課題

 品揃えの面では群を抜いているが、もちろん課題はある。最近ではほかにも大きなサイズを扱う専門店が出で来ているので、このカテゴリーでのアドバンテージも揺らぎつつある。また需要が通常サイズのものに比べて少ないため、品数やバリエーションの拡大という部分では限界が出てきてしまうのだ。
「ほかに小さなサイズを扱っているお店のことは聞かないので、このカテゴリーでは強いと思う。ただ顧客の年代層はどうしても上になる。おおむね高齢者の足が骨格的に小さいということと、商品構成として若い人向けの先端・ハイトレンド系の靴はつくってないからです。現状では10代、20代の吸引力はそれほど強くないということですね」
 商品構成を若者向けに拡大すれば、顧客層も広がり売上げの増大は見込める。わかってはいても、小さい靴を生産してくれるところを探すのが容易ではない。現在、レディースキットが主要な取引先としているところは5〜6社。品数やバリエーションを増やすための新たなメーカーを探したり、逆に声をがけてもらうこともあるが、なかなか条件がマッチするところが現れないそうだ。
「小ロット・多品種生産となるとメーカーさんは敬遠しがちだし、商品単価も上げないといけなくなりますよね。仕入れとのバランス、在庫管理なども難しい。どうしてもここがネックになってくるんです」
 現在の取引先のなかには、最小ロット30足からでも受注に応じてくれるところもある。その場合は単価をそのぶん上乗せしてもらったり、木型のコストを店側で持つなどの配慮をしている。たとえば木型分を一足あたりで割り、1足あたりの下代を千円〜二千円アップしてカバーしているわけだ。こうしてメーカー側にリスクを負わせない方法はとってはいるものの、商談に乗ってきてくれるメーカー探しとなるとやはり簡単にゆかないのが現状だ。
 今後のビジョンでも、より商品の品数やバリエーションを増やすためのメーカー探しに力点をおく。
「いまは商品的な要望に応え切れてないですからね。各年代層ごとに、こういうタイプの靴が調達できてないとか。そこを補うために、靴をつくってくださるところ増やしてゆくということです」
 奇しくも、いまはアパレル系のショップもハウスブランドなどで靴の販売に乗り出してきた。ライバルは既存の靴販売店だけにとどまらなくなっている。若者向け商品のセールスにおいてアパレル販売店は強力な相手になるだけに、靴専門店もうかうかしてはいられない。それだけに「ここはチカラの入れどころ」と考えているそうだ。