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2013年のナイキ戦略 を読み解く(その1)

――今年中に新たな方向性が打ち出される可能性も

好調だった12年上半期の業績
ナイキ(本社:オレゴン州ビーバートン、マーク・パーカー社長兼CEO)は2012年12月20日、上半期(2012年6〜11月)業績を発表した。売上高は124億2900万ドル(前期比9%増)、純利益9億5100万ドル(同15%減)となった。減益はアンブロ売却に伴う資産償却引き当て金1億700万ドルを計上したためで、実質的には増益である。ナイキ以外の関連会社コンバース、ハーリー、ナイキゴルフは合計売上高11億5300万ドル(同7%増)だった。アンブロとコールハーンは売却したため、非継続事業として売上から除外されている。
地域別売上は北米51億ドル(同20%増)、新興地域市場19億ドル(同10%増)と好調だった。国家的な財政危機が続いている西ヨーロッパ市場(同4%減)は、為替調整後の実質成長は6%で健闘している。グレーターチャイナ(同2%減)は実質(為替調整後4%減となった。
ナイキジャパンは上半期売上高4億200万ドル(前期比3%増)で、うちフットウエア2億1300万ドル(前期比6%増)、アパレル1億5900万ドル(同3%増)、イキップメント3000万ドル(同12%減)となった。ナイキジャパン業績は底を打ったと見てよいが、成長戦略は不在のままである。
フューチャーオーダー(12年12月〜13年4月)は6%増で、北米(14%増)、中東欧(10%増)、新興地域(7%増)は好調だが、西ヨーロッパ(1%減)、グレーターチャイナ(6%減)、ジャパン(3%減)は依然厳しい状況が続く。
ナイキは12月17日、関連子会社の組織改革とアクションスポーツ関連部門の首脳人事を発表した。コンバース(本社:マサチューセッツ州ノースアンドーバー、ジム・カルホーン社長兼CEO)はこれまで関連子会社事業本部が統括していたが、マーク・パーカー社長の統括事業に編入された。いっぽうハーリーの事業本部長にロジャー・ワイエットが就任。暫定的に本部長を兼務していたボブ・ハーリー(ハーリー創業者)は、会長職に残留するが、実務はワイエット事業本部長が統括することになる。
以上の組織と人事改革で、これまで組織上は独立していた2ブランドが、ナイキの直接管理下に置かれることになる。具体的には2社のR&Dはナイキ開発部門に統合され、営業もナイキの販売統括下に組み込まれる。
ナイキはもともと社内組織としてアクションスポーツ開発本部(サンディ・ボーディッカー統括副社長)を保有し、スケートボードシューズ(SB)とアクションスポーツシューズ(6.0)、スノーボードブーツを独自に開発してきた。今回の組織再編で、ナイキのアクションスポーツ企画開発は実質的にはハーリーを統合して、アクションスポーツ事業本部として運用されることになる。
コンバースはもともとR&D機能を保有していたから、ナイキのR&D部門との統合必要性は現在必要とは思われないが、ハーリーとの棲み分けは今後調整が必要になってくるだろう。コンバースはすでにハイパフォーマンスのバスケットシューズから撤退し、ナイキからライトバルカナイズ分野特化を指導されてきた。今後はそれに加えて新しい成長分野を開拓しなければならないだろう。すでにレザーモカシン、レースアップブーツへの拡大は進められている。

ナイキ、ビジネス再編に向けて動く
ナイキは12年10月にアンブロ、11月にはコールハーンを売却した。今回の首脳人事と組織再編成は、残ったコンバースとハーリーをナイキ組織と融合して、新ビジネスユニットに育成を推進するための措置である。
ナイキのビジネスユニットは売上高20億ドル以上の規模が基準である。フットウエア企業でいえばティンバーランド(売上高17億ドル)やスケッチャーズ(同16億ドル)以上の売上規模だ。これだけの規模のブランドを育成できる市場分野はめったにない。もしゼロから育成するとすれば、社会インフラ整備までしなければならないほどの規模だから、莫大な投資が必要になる。ナイキほどの企業でも、投資に見合う売上規模が展望できないことには、そのような新市場に莫大な投資をすることは難しい。
コールハーンとアンブロは、ドレスシューズとサッカーウエアの市場参入で、本格的な投資と育成が可能かどうかを模索するための買収だった。2ブランドとも売却したのは、ナイキの新事業部で本格投資する決断を下したことを意味している。コンバース、ハーリーのナイキ組織への統合編入と、12年から顕著になったユニフォーム強化は、コールハーンとアンブロの後継新事業なのである。
コンバースは「ライトバルカナイズ」市場ですでに13億ドルを達成しているから、単独事業本部として育成すれば20億ドル規模育成は可能だ。ところがハーリーは売上2億5000万ドル(12年5月期)なので、現在のところ独立事業として運用するには無理がある。このため、ナイキ内部組織と統合して市場育成、ビジネス拡大という漸進的な手法をとらざるを得なかったのである。
今回の組織再編成では、コンバースはライトバルカナイズスニーカー市場育成で長期戦略がかたまったと見てよい。しかしアクションスポーツブランド「ハーリー」の方向性は依然不確定要因が残されている。ナイキ社内のアクションスポーツ開発部門にハーリーを統合する措置をとったのは、ハーリーをアクションスポーツブランドとして育成するのを再検討する意図だと見られる。
アメリカのアクションスポーツ市場は壊滅状態にあるから、ナイキのビジネスユニット標準規模の20億ドルを目指すには無理がある。ナイキは新しいアクションスポーツスタイル育成に進むか、クラシックスタイルの拡大強化に進むか、13年中に方向性を決定するだろう。