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ISFセミナー/デザビレ流マチ興し

産地・浅草の活性化に生かせ!

 ――これが“デザビレ流”インキュベーションとマチ興し
 講師 台東デザイナーズビレッジ村長 鈴木淳氏

クリエイターを営業・販売・生産の面でサポート

 台東区は事業所の密度が東京都23区で第3位、製造業の事業密度は第1位、卸小売業の事業所密度も第4位というものづくり系、卸の事業所が集積したところです。反面、休廃業の増加率(21%)も第1位で、商売をやめていく会社も非常に多い地域です。
 「台東デザイナーズビレッジ(略称・デザビレ)」は東京都の廃校利用計画のなかで、廃校を「産業振興に使おう」と2004年4月につくれられました。背景には台東区内の製造業界から「モノづくりが非常に厳しい」「同じようなモノをつくっているだけでは付加価値がでない」という声が多く聞かれ、そのために「デザイナーを集めたい」という要望があったこと、さらに「区内で創業する人たちを少しでも増やしたい」という産業界の大きな声もありました。
 建物は築80数年の校舎の外側をそのままにし、内部をクリエイター向きに改装しました。理科室は製作スペースへ、各教室は間仕切りをしてクリエイターのアトリエとしています。
 デザイナーズビレッジでは売上げを上げるために営業のこと、販売のこと、生産のことをサポートしながらクリエイターに3年間場所を提供し、成長してもらっています。
 ファッション誌の編集長やデザイナーの先輩、PRの仕事をしている方などを招き、役に立つお話しをしていただくこともあれば、小売りの勉強を兼ねた販売イベントも行います。最近力を入れているのは、「小売店に頼るのではなく、デザイナー自身が売場に立って販売する機会をつくる」ことです。昨年はオープンしたての東急ハンズ表参道店で一ヵ月間「デザイナーズビレッジマーケット」を開催したほか、エキュート品川でも同じような販売催事を実施しました。趣を変え、西武そごうのバイヤーさんに来ていただき「個別面接をしながら商品のバイニングをしてもらう会」なども開いたことがあります。
 もうひとつ重視しているのは「お手伝いいただける工場を探す」ということです。手づくりクリエイターのレベルから、3年後にある程度の企業規模として成長してもらうためにはどこかで量産に切り替えなくてはならない場面もあるからです。このためクリエイターには工場でモノづくりの現場を見学してもらい、職人さんと交流させるという活動を行っています。商品開発のアイデア創造になりますし、何よりつくっている人たちへの尊敬の念も生まれます。例えばジュエリーを磨く作業を体験すると、宝石を磨いたり正確にカットすることがいかに難しいかがわかってきます。いずれ工場に量産をお願いすることになったとき、ただ価格だけ、物性だけの問題だけでなく、モノづくりにおける人間的なつながりから自分たちのブランドができあがってくる、ということが学べるのです。
 卒業生にはファッションデザイナー、磁器作家、文房具作家、ジュエリー作家、靴のデザイナーなど多彩なクリエイターがおり、活動の幅を広げ、事業を大きく伸ばしている方も少なくありません。この春までに計49組が卒業し、23組が区内に移転しました。うち16組が台東区内にショップを併設しています。
 卒業生のお店がどんどん誕生してくることで、このエリアはいろいろな雑誌に注目されるようになりました。そこで3年ほど前にエリアの呼称に「徒蔵(カチクラ)」という言葉を考えました。御徒町と蔵前の間、デザイナーズビレッジがある新御徒町駅周辺というのはとくに呼び名がなかったので、御徒町から蔵前から一字ずつもらって「徒蔵」としたのです。

お店や職場をオープンにするマチおこしイベント「モノマチ」

 日本のモノづくりは、手の込んだものを技術力というだけでは海外製品にかなわないのではないか、そういう日が来るのではないか、と危惧しています。高級ブランドといわれるモノが長年愛され、価値をきちんと感じ続けてもらえるのは、価格や技術だけでなく「モノづくり自体の歴史や背景にある価値がきちんと伝わっている」からではないでしょうか。そこで、われわれ台東区にいるものとしてやらなければいけないのは「モノづくりをテーマに街を元気にする」ということです。
そこで05年から街興しのため「モノマチ」というイベントを毎年企画・開催するようになりました。「モノマチ」の名は「モノづくりのマチづくり」からつけられたものです。
 イベントの内容は、台東区南部2キロメートル四方のところにあるモノづくり系の企業である製造業・メーカーさん・職人さん・問屋さん・パーツ屋さん・材料屋さん・資材屋さんなどにご協力をいただき「お店や職場をオープンにしてお客さまに来ていただく」というものです。モノづくりを見ていただきながら直接商品を販売する、あるいは体験の場を提供する、いっしょにワークショップなども行う。「モノづくりの魅力と街歩きの楽しさにふれながら、このマチを好きになってもらおう」というわけです。
 「モノマチ」がこれまでたどってきた経緯をご紹介します。
・05~09年 デザビレ施設公開/デザイナービレッジが各入居者のアトリエを公開しています。何しろ地元の人々はその施設の前身である小学校の卒業生ですので、「何をしているのが気になる」と見学希望があり、年に1度施設公開を始めました。クリエイターの仕事場を見てもらい、話をし、商品を買っていただく。クリエイターのお披露目にもなり、地元の方々との交流にもつながりました。
・10年 卒業生の店との連携/卒業生が近辺にショップを出すようになり、デザイナーズビレッジに来たお客さまに卒業生がはじめたお店をまわってもらうという「モノマチ」のトライアル版が始まりました。
・11年 地域のモノづくり企業との連携「モノマチ」開催/トライアル版の手応えがあったので、近所にあるモノづくり系の企業さんに声をかけ、「いっしょにこの日だけはオープンにしてください」というお願いをしました。「モノマチ」をはじめようというきっかけになりました。
次に「モノマチ」がどう広がってきたのかをお話します。予算ゼロのところから、近隣の社長に声をかけてスタートしました。

▶ 11年5月 参加約113組(企業16+飲食10+クリエイター87)
▶ 11年11月 参加約208組(企業62+飲食32+クリエイター114)
▶ 12年5月 参加約242組(企業120+飲食26+クリエイター97)
一般の来場者数も増えてきています。
▶ 11年5月 来場1万人(2日間)
▶ 11年11月 来場1万5千人(2日間)
▶ 12年5月 来場6万人(3日間)


下請・職人・卸の街からモノづくりとクリエイターの街に

 この地域は下請職人、卸の街でした。ここにクリエイターがお店を出して、自分のブランドと地域の魅力をアピールするようになり、メディアが来て「この地域はこんなにおもしろい」と再認識させてくれることになりました。
 この魅力、楽しさを、一般の人やメディアも理解してくださったわけです。3年くらいの間に、「モノマチ」との相乗効果なのか注目度も上がってきました。モノづくりの魅力が再発見されると同時に、街が少し元気になってきたような気がします。
 モノづくりで人を世界中から集めている地域にニューヨーク・パリ・ミラノ・フィレンツェがあります。できればこれに「徒蔵」を並べたいと思います。ニューヨークとパリ、ミラノはファッション商品、フィレンツェはジュエリーをつくってお客さまを集めています。これと同じ取り組みが台東区でもできると考えています。
 モノづくりの現場で職人のワザを目にし、自分でやってみて難しさを理解し、あらためて職人さんの気迫にふれると「こんな凄いことをやっているのか」ということがわかります。手間をかけ、丹精を込めながらつくられているモノの価値が伝わるのです。こうしたことを大事にし、職人やモノづくり企業の想いがさらに人を惹きつけるように持っていきたい。新しいモノづくり、街づくりの原動力になるはずです。
 第4回の「モノマチ」は今年の5月の下旬に開催されます。モノづくり系企業&店243・クリエイター111・飲食店22の合計376組が参加する予定で、過去最大規模のイベントに育ってきました。
 「徒蔵」南部で行っている「モノマチ」に加え、もうひとつこれから浅草地域で行われるイベントに「エーラウンド」があります。「モノマチ」に呼応する形で5月の下旬に、浅草から奥浅草といわれる台東区北部のほうで開催される予定です。こちらではモノづくりマーケット、靴や鞄などの展示、街歩きイベントやワークショップなど、さまざまな催しが行われます。とくに浅草~今戸では「靴の街・ASAKUSA」として、靴づくりの魅力を感じてもらうための催し物に力を入れています。「靴のよさはつくっているところを知ってこそ」。これほど工程が複雑で手間がかかる商品はそうそうありません。その大変さをきちんと伝えることが靴の価値を高めることにつながり、この街に人を呼び寄せる原動力になるのではないかと期待しています。
 台東区の南部のほうは主にファッション雑貨、北部の方は奥浅草中心に「靴の街」ということで元気になっていければと考えております。皆さまのお力もお借りできれば幸いです。