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接客の達人
 

                       リュテス ひばりヶ丘パルコ店(東京・西東京市)
 

「繊細な空気感を感じ取り、次のアクションにつなげる」

タブーとしている2つの言葉  「同じ洋服でも、バッグを一つ変えるだけで全体の印象がぐっと違ってくる。去年の服でも新しさを演出できる。それがバッグを販売する面白さです」。

バッグの魅力をこう話すが、エル(東京・武蔵野市)のレディス向けバッグ専門店・リュテスひばりヶ丘パルコ店に勤務し始めたのは約7年前。それまで、播磨さんはアパレルの世界で接客の技術を磨いてきた。ファッション感度の高い若い世代が圧倒的に多いラフォーレ原宿の人気ショップや、年配客中心の日本橋島屋など、扱い商品も客層も、求められる接客のあり方もそれぞれに異なるアパレルショップでキャリアを重ねてきただけに、「洋服との相性を見ながらバッグを提案する」ことに関してはプロ中のプロだ。

 同店は、ニューヨークで人気のトライベッカシリーズやラフローゼス、スペインのキャサリンパーラーなど、3〜7万円の手に入りにくいインポートものに力を入れており、「こだわりのバッグがほしい」という目の超えたお客が多い。年齢層は40〜50代が中心。  革の質感やデザインを重視する来店客を接客する際、播磨さんがタブーとしている言葉がある。「何かお探しですか」と「どうぞ、ご覧ください」の2つだ。どの店でも当たり前のように販売員から掛けられる言葉を避けるのはなぜか。

 「以前勤務していた百貨店で、お客さまにアンケートを取ったとき、非常に不評だったからです。特に『どうぞ、ご覧ください』は、投げやりに受け取られがちで、『見たかったら自分で見る』というお客さまが少なくない。ですから、初めてのお客さまにはまず『いらっしゃいませ』とお声をお掛けし、そのときの反応を見ながら、その後どう接客するかを考えます。空気感が固い場合はそのまま見ていただきますが、柔らかいときには、着ていらっしゃるお洋服や靴、お天気の話などをきっかけに、お声をお掛けしています」。

 播磨さんが言う「空気感」とは、お客の全身から放たれるオーラのようなものだ。「放っておいてほしい」という意志が感じられるときには、播磨さんとお客との間に流れる空気感は固くなるが、「話しかけてほしい」という思いがあれば播磨さんの言葉に笑顔や会釈で返し、とたんに和らぐ。

 この繊細な空気感を播磨さんは瞬時に感じ取って、次のアクションにつなげている。
 「お客さまが手に取られたバッグに共通点がある場合には、そのバッグのポイントをお伝えします。入ってきた商品の特徴は基本的に頭に入れて自分でも勉強しているので、こちらからこういうバッグがいかがですかと提案をすることも多いですね。インポートものは点数が少ないので、この機会を逃すともう売場にないかもしれないと印象づけ、商品の紹介をすることも大事(笑)。旅行や同窓会などに使いたいという動機の方も多いので、シーンの提案も欠かせません。友だちとかぶらないバッグ、『どこで買ったの?』と聞かれるバッグであることも大切なポイントです」。 自らバッグを持って遠くに立つ 。

 女性心理を巧みに読みながら接客する播磨さんが重視するポイントはもうひとつある。話をするときのスピードだ。年齢が上の客にはできるだけゆっくりと、柔らかい語尾で語りかけ、相手から答えが出てくるまで時間がかかってもあせらずに耳を傾ける。当たり前のようでいて、意外に実施されていない接客の基本を播磨さんは忘れない。  お客が色違いや素材違いで購入の決心が揺れていときには、播磨さんはバッグを持ち、少し距離を置いて立つ。どんな印象に見えるかを客観的につかんでもらうためのアイデアだ。

 「女性はほかの人が持っているバッグを見て『いいな』と思うことが多いんですね。自分で持つとわからないので、実例となってお見せしているわけです」。
 播磨さんがこの店に入るまで、同店は積極的な接客販売を行わず、ほぼセルフ販売方式を取っていたため、播磨さんの配属後、売上げは飛躍的に伸びたという。的確な接客をすれば必ず結果がついてくる。確かな手応えを感じている播磨さんの目下の悩みは、スタッフの育成だ。

 「ありがたいことですが、せっかくお店に来たのに私がお休みだとわかると、何も見ずに帰ってしまわれるケースがあるんです。それは結局、お店にとってマイナスになってしまうので、お客さまにスタッフを積極的に紹介したり、スタッフの前で接客をするようにしています。目標は、私がいなくても買いたくなるお店。このお店で買うと楽しい。買い物をしたくなる。お客さまが人ではなく、お店につく。そういうお店にしていきたいですね」。
 播磨さんの接客のスキルがしっかりと店全体に伝えられれば、同店の売上げはさらに伸びていくに違いない。