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 HOME > フットウエアプレス > 地方有力専門店のいま テヅカ(宮崎・宮崎市)



 

――接客ができる人材を多数育成

 テヅカ(手塚剛一社長)は、宮崎発祥の靴専門店で、九州地区に計29店舗を展開している。内訳は宮崎17、熊本5、福岡・博多5、長崎2の各店舗であり、このほかにライフスタイル型雑貨店「ショップアレーズ」を2店舗宮崎市内に出店している。県外にも積極的に出店する理由、また将来をにらんだ計画を手塚社長に聞いた。

インショップと大型路面店とに大別

 靴が主体の29店舗は、大きく2タイプに分けられる。「ミスピカソ」「ピカソデュオ」に代表されるショッピングモール内の30〜40坪のインショップと、「霧島店」「柳丸店」などの100〜150坪の大型路面店である。路面店は8店舗(今年12月に延岡に1店舗出店予定で、年末には9店舗)を数え、インショップが18店舗、ほかにリーガルショップが2店舗(宮崎と長崎)、ナイキスペシャリティショップが1店舗(宮崎)ある。インショップはトレンドを押さえたレディス中心の品ぞろえで、路面店は介護シューズからビジネス、レディス、スニーカー、キッズなど幅広い商品をそろえるファミリー対応のフルラインショップである。
「宮崎市は人口がやっと40万人と、市場が小さい。他県に出店しているのはそのため。基本的に宮崎のショップでは新しい見せ方のできる店づくりを工夫していきます。福岡や北九州の市場は大きくて魅力的ですが、競争も激しい。勝ち抜くためには、よく言われる『人・モノ・器』を充実させて企業レベルを上げていかなくてはならないと考えています。長崎は特色のあるいい市場で、平地が少なく出店のための適地があまりないため、競争もゆるやかです。歴史的な街でもあり、独特の文化がある。合わせて考えていければ、面白い市場と思いますし、よい専門店も残っています。熊本は人口70万人、商圏百万人という競争の激しい市場ですが、努力のしがいがあるところではないでしょうか」(手塚剛一社長)
 郊外店は規模が大きいので1店舗あたり1億3000万〜1億4000万円の年商を、ショッピングモール内のインショップはほぼ7000万円の年商を基準としている。路面店はすでに合計十数億円の規模にまで育っているが、業態別、また熊本、福岡、長崎などの各ゾーンをそれぞれ7億円にしていくという大きな目標を持っている。7億円というのはやみくもに立てた目標ではなく、その程度が、ちょうどマネージャーが管理しやすい店舗数であるという。すでに、熊本では総売上げが6億円を超えるところまで来ている。


店長采配の仕入れで個性を出す

 インショップである「ピカソ」のグループは、20〜40代の女性をターゲットにしている。しかし、すべてが画一的な品ぞろえではない。「商品構成で売ればいい」という方針があるからだ。イオンモール宮崎の「ピカソデュオ」は賑やかにセールのような売り方が得意だが、一方でイオン博多内の「ミスピカソ」はセンスよく単品の陳列に挑戦する。1店舗ずつ切り口を変えて見せていく。ファミリータイプの路面店でも、クラークスが多いところも、レッドウイングの品ぞろえを誇るところもある。
「チェーン展開ではなく、支店展開です。本部仕入れもありますが、3割は個々の店長の采配に任せてあります。ただし、在庫も多い。在庫量は、ショップごとに足数が決まっています。規模や売上げで異なりますが、『この店舗は1万3000足』と決まれば、店舗の側でこれに合わせて販売していきます」。
 ここでいう「在庫」とは店頭にある商品のことである。来店客が最もよく見える数を割り出したわけだ。多くても少なくてもいけない、ちょうどいい数である。このシステムはもう7年も続いており、効果をあげている。
 
40数年間赤字を出さない健全経営

 テヅカは1921年の創業で、今年で創業93年を迎える老舗であり、この40数年赤字を一度も出したことがないという超優良企業でもある。
「絶えずスクラップ&ビルドを繰り返してきました。急がず、無理せず、きちんと出店しているだけです。ひとついえることは、人材育成を大切にしてきたことでしょうか」。
 人材教育には、力を入れている。毎週開かれる店長会議には、熊本、長崎、博多の店長も出席。だが、2ヵ月に1回は現地で開き、サブ店長も参加させて次への出店に備えている。
接客にも注意を払う。「地方の都市ではフリー客が少ないため、特に大切。ナショナルチェーンとの差別化をはかるための、簡単かつ難しい方法」というスタンスからである。とくに研修はせず、先輩から後輩へとすべてOJTで叩き込む。個人売りのノルマはないが、マネージャーが130名の全員の販売成績を常時把握、毎月200万円以上の成績を上げたスタッフの名前は月報に掲載されて全店に配られる。掲載される人数は毎月5〜60名はあり、トップクラスともなれば320〜330万円もの売上げをあげている。同店の価格帯は1万円以下が中心であることを考えると、この数字は驚異的でさえある。
 テヅカは、社員のために出費を惜しまない。昨年の社員旅行にはハワイを選び、年2回の全体会議や忘年会は一流ホテルで行う。
「販売業は大変な仕事。メリハリをつけるために、年間のリズムをつけることが大切だと思っています。そこから、モチベーションが生まれるのです」。
 どんなに苦しいときでも、毎年大卒の新入社員を3人前後は採用してきた。それが、今の同社の力となっている。
 
高齢化と人口減少に備える

 「今後は、高齢化と人口減少にどう備えるかが課題といえるでしょう。宮崎もほかの地方都市と同様、高齢化が進んでいます。それに合わせて靴店をどう変えていくか、どう位置付けていかなくてはいけないかを考えています。この対策をきちんと考えたところが勝つのではないでしょうか」。
 そのために、ゆくゆくは買い上げ商品を届けることも視野に入れている。何しろ、宮崎は車社会。高齢になって、多くの人々が運転できなくなったときのことを考えておく必要があるからだ。ファミリータイプの路面店では、「快足主義」などの介護用シューズも売れ筋になっている。
 「今も、これからも、見やすく入りやすいショップをお客さまのそばに出店していくことが重要」と手塚社長はいう。同社の強みは接客販売をしていることで、よい人材を抱えていることが強みだ。きちんと自分たちの仕事をしていけば、中央の大手チェーン店が進出してきても、怖くはない。多くのチェーン店が宮崎から撤退していき、テヅカは自分たちのテリトリーを守り続けている。