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第11回IVOパネルディスカッション――靴の知識を統一しながら啓発活動を続けていくことが大切 |
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座長 新潟医療福祉大学教授 阿部 薫氏 アキレス 津端 裕氏 アサヒコーポレーション 古賀 稔健氏 ムーンスター 濱中 伸介氏 ウェルネス&シューズサロン フラウプラッツ代表 伊藤 笑子氏 NPO法人WISH(子供たちの足を守りたい)理事長 永井 恵子氏 アルカ アンファンドゥアルカ伊勢丹新宿店店長 寺井 深雪氏 正しい子供靴を選ぶための知識が不足阿部 このパネルディスカッションでは「子供靴を考える」というテーマで、大手子供靴メーカー3社の方々と、子供靴を取り扱う小売店3店の代表による討論を行わせていただきます。子供靴のさまざまなことについて過去・現在・未来というキーワードでそれぞれの立場の方々からご意見をいただきたいと思います。では最初に「過去」について、これまでの問題点についてお話しください。津端 60年以上子供靴をつくり続けてきておりまして、認知度は高いと思います。栃木県足利市に工場がありました。かつてはそちらに専任部隊があって、足利を中心に、全国のお子さんの足の測定をしながら商品開発をしていました。それが定期的なデータ収集につながっていたわけです。ところが現状を見ると、商品開発が先行してデータ収集や測定が後付けになっています。根底には製造と人材に問題点があると思います。製造に関しては、今やほとんどが中国のOEM生産。人の問題では、経験を積んで靴づくりをこなしてきた人たちがリタイアし、結果的にラストのところまで目が行き届いていないという面があります。 古賀 私どもの会社は1892年に足袋から創業しています。その後1923年に地下足袋を、26年にはスニーカーを発売しました。北海道から九州までさまざまな手計測で収集した子供の足のデータも現存しております。ただ、一度つくるとなかなか変更しないというところもあり、見直すべき点があると感じています。 阿部 それでは、販売側の代表として3人の方にコメントをいただければと思います。 伊藤 22年前から、高性能のヨーロッパの子供靴を販売しております。販売をはじめた当時、一般の消費者は「子供の足に対して靴が与える影響」「靴の善し悪し」などについて、知識がありませんでした。売る側にも販売のノウハウがなく、一部の知識や意識のある小売店は足型計測による販売をはじめましたが、とても手間暇とコストがかかるものでした。したがって計測販売は高品質で高額な靴に限られ、一般の消費者は量販店で買うというパターンが圧倒的でした。 永井 過去において、靴はアニメキャラクターなど子どもの興味をそそるおもちゃのような感覚で選ばれていました。さらに、日本独自の住居の様式も影響しています。玄関があるために簡単に着脱を行う生活スタイルが浸透してしまっていて、正しい靴を選ぶための知識がなかったと思います。 寺井 日本の靴文化の歴史自体が短くて、子供靴が大切だという知識が不足していることが問題だと思っています。「サイズがすぐに大きくなるから」といって大きめの靴を買ったり、デザイン重視でお子さまが選んでしまった、ということになりがち。 「足によい靴」が市場に入れない理由阿部 続きまして「現在」というキーワードで、「取り組まなければいけない緊急課題」「これがやはり重要だ」というところについて、発言ください。津端 「瞬足」が年間600万足とよく売れています。一昨年の発売10周年のときに、「子どもの足の健康を考える靴をつくっていこう」と宣言しました。実際に活動をはじめて、テレビコマーシャルでは靴のはき方などを2年ほど紹介しており、足型測定会も継続的に全国で行っています。商品づくりにもそれを活かしているわけですが、販売の面ではまだ問題が残るところがあります。市場での競争が厳しく、売れ筋中心のマーチャンダイジングになりがちです。コンセプトを理解して扱っていただける店もいますが、まだまだ広まっていません。 古賀 「日本の工場を大切にしなければいけない」と思っています。当社では久留米市に300人の職員がいて、20〜60代までの幅広い年齢の社員がいろいろな取り組みを行っています。例えば1歳から12歳までの22万人の足型データを自社の足型測定器でとり、手計測なども補助的に活用する。こうしたものを含めてラストバランスを考え、子どもたちに向けた商品を開発しなければならないと思っています。 伊藤 日本の場合は生まれてから足を検診する場や機会が少なくて、実際に相談に来られるお客さまのなかにはメディカルな問題を持っている方もいます。対応する私たちも専門知識や能力を持ち合わせないと、逆にお客さまを不健康にさせてしまうような事態を招きかねません。こうした点も解決すべき緊急課題のひとつ。「足が痛い」といって来られたお子さんが、実は完全に骨折していたという事例もあります。 永井 足と靴、健康に関わる問題についてはいろいろなところで提示されており、関係者はもちろん消費者も気づきはじめているはずです。しかし正しい靴選びやはき方などの知識を得る場が少ないですね。せっかくよい靴があっても選択の決定ができないところもあります。学校や幼稚園には指定というからみがあり、ここにリンクしてくる課題だと思っています。 寺井 店舗では必ずフットプリントを落としてカウンセリングをしています。靴選びはこういうもの、ということがお子さまやお母さまたちにも浸透してきました。口コミでメーカーさんのお問い合わせも増えており、靴選びに対する認識や関心の広まりを感じています。家庭などでの意識が上がっていく一方で、学校・保育施設では指定の靴があり、「脱ぎはきをしやすいものに」という依頼があったりします。こうしたお母さまたちと施設側との意識の乖離をどうするかが、緊急課題だと思っています。 啓発活動が未来へのアプローチ阿部 では3番目のキーワードです。最後に「未来」という言葉のくくりで、「こういうことに取り組んでいる」「こんなことを計画中だ」など方向性を示していただきたい。津端 私どもは測定会をずっとやってきている関係から、直接お母さんやお子さんと触れ合う機会が持てます。CMでは正しい靴のはき方を伝えていますが、それを見てまずしっかり「踵をトントントン」だと覚える。正しいはき方の知識が浸透していくという手応えがあります。正しい靴選びやはき方の啓蒙活動は続けていくべきですし、シューズメーカーとしての社会的な役割もあります。単独ではどうにもならないところは、業界全体で商品にタグを付けたりなど、いろいろな告知の方法も考えられると思います。 古賀 「アサヒ健康くん」というブランドですが、製造に関してはデータを分析し、10pから26pまでのラストバランスを見直して商品化をスタートさせました。啓発活動はとても大切です。学校で身長・体重を量るときに足のサイズも測っておくのがいちばんいいはずですが、それがない。そこで「足・こども手帳」というのをつくり、啓発活動や測定会の際に保護者の方にお子さまの足のデータを入れてお渡ししています。定期的に足を測定して成長記録がつけられるうえ、足長の平均値や足についての知識、靴選びのポイントも記載され、参加された皆さんにとても喜んでいただいています。 濱中 靴に携わる人たちの教育不足が問題ですね。そこで当社ゲンキキッズの子供靴売場では、定期的に足型計測会を実施したり、子どもの靴選びに関する情報・サービスを提供するだけでなく、販売スタッフの教育にも力を入れています。ただ業界全体としてみたときに、果たして「正しく、統一感のあることを話しているのか」という疑問を感じるときがあります。業界には各メーカー、小売、各種団体などがあります。しかしアドバイスをしても、その内容に異なる点があれば消費者は混乱してしまいます。ですから、さまざまな点で統一した見解を出すことが必要と思っております。 伊藤 販売側の知識が一定レベルを満たし、さらに標準化されていることが必要と思います。知識と意識に対して高い要求をされるお客さまは専門店を探し当て、相談しながら靴を買われます。ただこうした方は少数派で、現実は知識がない消費者が圧倒的。ですから消費者側の意識の底上げが必要で、そのための靴選びに関する知識の標準化が大切だと思います。まずは一定の知識を提供していくための標準化、ガイドラインづくりに取り組むようにお願いしたい。「靴のことはあまり考えないという層をいかに啓発していくか」が、未来に対するアプローチには欠かせないと感じているからです。 永井 啓発は消費者だけではなく、すべてのメーカー、小売店、協力者にも求められています。進めていくには、統一された知識というものが望まれていると思います。同じ「足育」という漢字でも「そくいく」や「あしいく」と読んだり、または「靴育」という言葉もあります。こういうものを統一し、全体で連携しながら啓発活動をつづければ、子どもの足の健康にもつながります。それが「はじめの一歩」でもあると思います。 寺井 学校などの教育施設では、靴の指定やくくりがあって「いい靴をはかせ続けられない」という声が多い。教育に携わる先生たちも啓蒙し、日本人の子供靴の文化自体を底上げしていく必要があると思います。 伊藤 消費者にとって望ましいことは、よい商品を適正価格で広く拡販していくことです。個人でできること、一社でできることには限りがあります。とはいえ最終的にみなさんが感じていることは共通していると思います。そのために業界における知識の統一化、それから広く流通できるように商品の安定化を切に願っております。消費者にも、これからは「安いモノがいい」という感じ方ではなく「適正なモノには適切な価格がある」という意識をもっていただけるように、活動していきたいと思います。 |
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