今月の記事・ピックアップ 2015・5
 HOME > フットウエアプレス >  特集 期待の「インバウンド需要」売場のサービス・接客・販促


・ビザ発給要件の緩和や、急激な円安進行によって、インバウンド(訪日外国人)の数が増えている。
・今年に入って中国の「春節」やタイの「ソンクラーン」が日本でも話題となり、日本の小売業は、都心部や観光地を中心のインバウンド需要で潤った。
・インバウンド需要もこれまでの家電や化粧品だけでなく、ファッション品や日常品にまで波及し、靴の購買も見られるようになった。
・特集では、靴売場の販売状況と合わせ、訪日客に対するサービス、接客対応を様子を見る。

売場のサービス・接客・販促

 「アベノミクス」でもあまり好況感のない日本に、「海外からのお客さま」がたくさんやってきた。欧米からの観光客は、あちこちの観光名所を回り食事を楽しみ、ときには「禅寺」に行ったりする「体験型」。これに対して、ショッピングが大好きなのが、アジア系の観光客だ。円安効果で、自国よりもブランド品が安く買えるのが大きな魅力となっている。
 そろそろシューズショップも、インバウンド対応で忙しくなってきた。各店ともさまざまな対応で乗り切っているようだが、最も悩むのが接客である。そこで、どのようなポイントがあるのかをまとめてみた。

「言葉の壁」を乗り越える指さしマニュアルの存在

 外国人客の接客にあたって、大きいのが言葉の問題である。外国人客とはいえ、アジア系(中国、香港、台湾、タイ)が中心になる。「基本的に英語で対応できるので問題はない」(京王百貨店新宿店)、「ほぼ英語で対応できるが、不可能なときは中国語が話せるスタッフを電話で呼ぶ」(西武池袋本店)と、まずは英語からスタート。「スマートフォンで画像を見せ、『サイズはないのか』と聞いたり、ラインで本国の相手とやり取りしつつ購入」(シュープラザ新宿東口駅前店)するのがよくある購買スタイルなので、相手の言いたいことは基本的に理解できる。
 しかし、どこの国でも若い世代は英語ができるが、ミドルからシニア世代になるとそうはいかない。サイズ表記の英語読みができないとお手上げ状態となる。また、現在中国からの訪日客はアッパークラスから次第に中間層になってきており、「初めて見る外国が日本」という人も少なくない。英語も日本語もほとんどわからない場合に備えて、各社ともツールを用意している。
 「パネル式多言語接客シートを活用」(松屋銀座)、「タブレットのマニュアルやサイズチャートを指さしつつ接客」(アスビーイオンモール成田店)、「一昨年から『外国人向けハンドブック』を各店に配布、接客の際のキーワードは決まっているので、こちらを活用」(エービーシー・マート)など、タブレット、冊子とさまざまだが、本部が準備して各店に配布している。インバウンドニーズが高まってきたのがここ1~2年で、対応もこれに合わせている企業が多い。
 ときにはキーワードを相手国の言葉で言うと効果が上がる。「中国の方にハオカン(可愛い)というと効果的」(エスペランサ銀座コア店)、「スニーカーのある3階にタイ人の団体客を『チャンサン(3階)』『ミー・リフ(エレベーターあります)』などキーワードを覚えてご案内。するとみな笑顔になって『チャンサン、チャンサン』といいながら上がっていく」(シュープラザ新宿東口駅前店)など、(相手から見るとカタコトだろうが)ちょっとした心づかいが相手の心をほぐしていく。
 そうはいっても、対応には限界がある。「インソールには低反発ウレタンが……」などという複雑な説明はとても無理。そこで、「今後は外国人採用枠を設けて、積極的に言葉のわかるスタッフを配置する計画」(シュープラザ新宿東口駅前店)、「外国人の多いショップには、外国人スタッフを置くことも考えている」(ジーフット)という所も多い。ただし、中国系留学生や住民は日本に多いが、現在ニーズの高いタイ系となるとそうはいかない、というのが現実のようだ。
 勉強熱心なスタッフもいる。「中国語の本やインターネットで調べて、スタッフ一同勉強している」(エスペランサ 銀座コア店)、「接客の言葉はむずかしくないので、いろいろな言葉を勉強したい」(アスビーイオンモール成田店)など、努力と向上心を評価したい。

多言語POPやパンフレットでわかりやすくリード

 言葉の壁はすぐには乗り越えられないが、POPや販促物なら十分に準備できる。そこで、各社とも販促ツールやディスプレイでの接客サポートに余念がない。
「外国人のために英語と中国語でブランドをPOPで説明」(銀座松屋)、「多言語でマドラスを紹介したパンフレットがある」(マドラス銀座店)、「計測器には英、中、韓の3か国語の表記があり、日・欧・米のサイズ一覧表も用意」(京王百貨店新宿店)、「ショッピングガイドやフロアガイドも、英・中(繁体字)・中(簡体字)・韓国語の4つの言葉で併記」(京王百貨店新宿店)と、基本的なところをしっかり押さえる。そのほかにも、店頭に「オニツカタイガー3階と中国語とタイ語で併記」(シュープラザ新宿東口駅前店)と臨機応変。
 外国人客のニーズは、スニーカー、メイドインジャパン、外国ブランド(もしくはライセンスブランド)のパンプスがポイント。わかりやすいディスプレイも必要だ。「定価で買うなら日本製がいいという方が多く、主力商品のところには『MADE IN JAPAN』のPOPを置いている」(ジェリービーンズ ビーナスフォート店)、「オニツカタイガーをメイドインジャパンとして特別にディスプレイ」(シュープラザ新宿東口駅前店)などの心配りも。スニーカーはもともとブランド別展開だから、外国人にもわかりやすくていいようだ。






免税店になれば、客単価のアップが見込める

 インバウンド効果をよりあげるための方法が、免税店の資格を取ることだ。「1万1円以上(税抜)買い上げると免税」というのは、客単価アップにも確実につながっていく。申請作業もそれほど難しいものではないので、各社こぞって力を入れている。
先輩格である百貨店も免税カウンターを増強し、対応にあたっている。「免税カウンターを2ヵ所設置。一つだけだったときには、8時の閉店を過ぎても行列が続いていた」(西武池袋本店)、「昨年10月には、それまでサービスカウンター内でひとくくりに扱っていた免税カウンターを独立させ、席数も3席から10席に増強」(京王百貨店新宿店)、「免税カウンターを昨年から拡大、店内の免税案内のPOPも」(銀座松屋)と力を入れる。
 大手専門店の場合も、「全国151店舗を免税店とした(昨年10月現在)」(ジーフット)、「免税店の申請を進めており、4月中には100店舗以上が免税店になる予定」(チヨダ)と、着々と免税店化を進めている。人件費などの効率面でまだ免税店化していないエービーシー・マートも、考慮中だ。
 また、インショップの場合、インバウンドの効果の程度は館の対応にもよる。「朝の開店と同時に館に観光バスが横付けになり、その状況がずっと午後も続く」(ABC-MART グランドステージ ダイバーシティ 東京プラザ店)、「イオンが中国の航空会社とタイアップ、割引情報をホームページに掲載しているほか、ネットでダウンロードできる『エンジョイ イオン』というクーポンを見せると、やはり5%オフ」(アスビーイオンモール成田店)と、館全体で呼び込む努力をしているところが強さを発揮しているようだ。
いずれにせよ、各社とも2020年の東京オリンピックまではインバウンドニーズが続くと見ており、とりあえずそこが大目標。来日した外国人からはおおむね日本の「接客」に対する評価が高いだけに、ぜひ靴売場からも「おもてなし」と「お客さまに寄り添う」精神をいかんなく発信してほしい。「今回だけだからいいかげんな接客でいい」などとは絶対に思ってはいけない。それはネットで拡散し、ひいては日本のファンを失うことにもつながる。
それに、海外のファンができて「前にこのお店に来た人から聞いてきた」と新しいお客が来店するのは、何とも素晴らしいことではないか。