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 アジアリング 高橋悟史

<FONT size="+1">WEBを見てから実店舗に-- 販促手段に</FONT>

 楽天市場とアマゾンの国内流通総額は年間3兆円を超え、運営費が無料化したヤフーショッピングの登録店舗数は28万店(楽天市場の7倍)となった。成長分野でありながら、激しい競争が見られるオンラインショップ市場。15年前とは異なり、ショッピングモール店であろうが、独自ドメイン店であろうが、ショップを立ち上げただけでは、店舗数が多過ぎて売上げがつくれない時代に突入してしまった。だからといって、リアル店舗でお客を待ち続けるだけではお店の存続はない。今後どうWEBを活用していけばいいのか? 靴販売におけるこれからのWEB活用法を整理していこう。

オンライン、オフラインの境界線がなくなる

 これまでオンラインといえば、パソコン上でホームページを閲覧する、商品をカートに入れる行為だった。ところが、スマートフォンを持ち歩くようになり、24時間どこにいてもWEBにアクセスすることが可能となった。起動させるまで数分かかるパソコンで接していたオンラインのサービスが、いつでも数秒でアクセス可能なスマートフォンに入れ替わり、街を歩きながら常にオンライン状態でいることが当たり前となった。近い将来には、駅や商業施設内のデジタルサイネージ(電子看板)、車や生活家電、家具などにWEBが組み込まれ、ログインするだけで個人のネット環境にアクセスできる時代がやってくる。おそらく、パソコンは純粋な仕事道具となっていくだろう。
 実際に、2014年に実施したジャストシステムの「主要メディアの年代平均接触時間」調査によると、15〜19歳の若年層のパソコンの接触時間は大きく減少しており、スマートフォンを中心にメディアを活用する傾向になっていると報告されている。このことから、スマートフォンを通じてお客さまと接点を持つ、コミュニケーションを図っていくことを考えなければならない。

すべての企業に「オムニチャネル化」が不可欠

 靴業界でもホームページやオンラインストアを立ち上げている企業は過半数となり、WEB化が浸透した。しかし、これまでのスタンスは、小売店では「商圏を全国に広げ、リアル店舗の売上減の穴埋めをするために運営する」、一方、卸・メーカーでは「直販サイトを立ち上げて、卸の業績不振の穴埋め、もしくは過剰在庫を処分するために活用する」が一般的と考え方だった。
 もちろん、この方法で業績を伸ばしたショップ、新しいビジネスモデルを構築した企業も存在する。しかし、このスタンスだけでは、リアル以上に競争激化が見られるWEB市場では、生き残り策とはならなくなってしまった。言い換えれば、これからオンラインストアを強化しようと考えている企業には、自社でノウハウを蓄積していったすでに成功しているオンラインストアの実力企業にはほとんど勝ち目はない。
 したがって、これからのWEB活用は、180度方向転換をさせ、小売店であれば、地元のお客さまが来店する前にチェックしてもらう情報掲載、卸・メーカーであれば、既存の取引先に向けたリテールサポートの視点(販売支援活動)で、WEBの力を最大限に活用していくことが求められる。これまで培ってきた本業(リアル店舗運営や卸事業)に磨きを掛けるために運営していくという考え方になる。
 “リアル店舗をよく利用するお客さまがWEBをよく見ている”ということにいち早く気づいた無印良品やユナイテッドアローズの事例から、日本国内でも「オムニチャネル化」の必要性が叫ばれるようになった。上記のように、消費者はオンラインとオフライン(リアル店舗)の境界線を意識することなく、自由に使い分けしている。
 オムニチャネル化とは、リアル店舗とWEBの在庫から顧客管理、販促すべてにおいて、一元化をさせていこうとする考え方である。また、消費者がどのメディアから接触してきても、企業の全スタッフがすぐ対応できる仕組みをつくることでもある。消費者のオムニチャネル化はスマートフォンの登場ですでに完了しているので、消費者の利便性に寄り添うサービスを目指すものとなる。
 特に、リアル店舗を運営している企業は、オンライン(WEB)を活用してオフライン(リアル店舗)へ送客していこうとするのが、OtoO(オンライン トゥ オフライン)施策となる。近年は、リアル店舗で試しばきしてから、他店のオンラインショップへ流れてしまう「ショールーミーング」が懸念されているが、逆の発想で、WEB力を活用しリアル店舗への来店きっかけをどんどん創造していくのが、OtoOの考え方である。
 大手企業では、システム構築のため多額の投資を始めているが、中小企業のWEB運営でも、まずは電話やメールで商品確認や在庫チェック、取り置き、取り寄せ対応など、お客からの問い合わせをスムースにすることから、OtoO施策につながる運営は実践可能といえる。

リアル店舗に誘導するためにOtoOを活用

 神戸レザークロスの「エスペランサ」が、リアル店舗全店の在庫状況が確認できるシステムを導入してから、ジーフットでもリアル店舗の在庫確認、ABCマートでは、すべての商品が全店舗で「店頭受け取り」が可能となり、靴販売におけるWEBとリアル店舗の使い分けの土壌が出来上がった。現在では、「かねまつ」や「ビルケンシュットック」でも、全商品の取り扱い店舗リストが確認できるようになっており、WEBで事前チェックしてからリアル店舗に行くことが、消費者にもどんどん浸透していくだろう。
 一方、「シューマート(長野市)」や「まつや(和歌山市)」、「ロンド(北海道・帯広市)」など、ローカルチェーンや地域一番店のホームページ運営では、リアル店舗に来店する前にチェックしてもらう情報掲載に力を入れ始めている。全商品の在庫確認ができなくても、このように店舗に行く前に、スマートフォンでチェックしてもらうためのお店の情報発信は、すべての小売店で必要な視点となる。
 これからは、地元のリピートのお客のために何度も定期的に訪問してもらうホームページやオンラインストアの運営が不可欠である。また、ブログやフェイスブックを毎日更新し、お客とコミュニケーションしている店長は多いが、ここで重要なのは、企業メディアのベース基地である「ホームページ」と「オンラインストア」の最適化である。ブログやフェイスブックはこのベース基地に誘導するためのサブツールであることを忘れてはならない。



メーカー卸のWEB活用の方向性を探る

 小売店では大手チェーンから、Otoの考え方を取り入れたWEB活用事例が見られ始めているが、リアル店舗を持たないメーカー・卸はWEBをどう活用していくべきか? 残念ながらその新しい事例はほとんど見られない。メーカー・卸であっても、今後の戦略が直販事業を拡大させ、リアル店舗運営と合わせ本気で取り組んでいくのであれば、小売店と同じようにOtoO施策を行うことが得策となる。
 しかし、これまでのように御を主体として事業を続けていくのであれば、本業である「卸」の部分にフォーカスさせて、WEB事業を考えていく必要がある。消費者とダイレクトにつながることができるオンラインショッピングで、単に売上げをつくるのではなく、自社ブランドのマーケティング活動を実施するために取り組む。例えば、新ブランドや販売実績のない新企画の商品は、自社サイトでテスト販売を実施し、そのデータを分析してから、取引先へ販売支援につながる情報提供を行っていく。つまり、単にWEBで直販するのではなく、営業が取引先にさまざまな情報支援をしていくために活用するのである。また、自社と取引先のオンラインストア共同で、先行受注会を実施していくなど、取引先と協力してさまざまな施策を考えていく。
 小売店、メーカー卸ともに、これからは、WEBでどんなことを実現させていきたいのかを考えなくてはならない。まずは経営者のビジョンの明確化と、その運営目的の全社員の共有化が必要となる。WEB事業を重要業務と位置付け、全社一丸となって取り組んでいかなければ成功することはできない。