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ものづくりの現場 宮城興業 
カスタムメイドの分野から、メイド・イン・ジャパンを提案

宮城興業(山形・南陽市)は、メイド・イン・ジャパンのものづくりが叫ばれる以前から、山形の地で靴づくりと向き合ってきた、国内でも数少ないグッドイヤー・ウェルテッド(GW)製法の靴メーカーのひとつだ。高橋和義社長の祖父が靴づくりに携わったのは1941年。創業から70年以上、「和創良靴」のミッションのもと、一貫してGW製法にこだわり続けている。
このメーカーが、小ロット生産のカスタムメイド・システム「謹製誂靴」(特許申請済)の紳士靴をつくり始めて今年で11年目となる。熟練した職人たちの手によって、小ロットでの手間がかかるこの生産は、スタート当時はなかなか理解されなかったという。しかし、次第に軌道に乗りだし、世界6ヵ国にも輸出するようになっている。ここまでの経緯と今後を、高橋和義社長に聞いた。

婦人靴の生産工程をつくる

高橋社長は、東京の大手靴メーカーで3年間の営業を経験した。バブル崩壊時期であり、小さな商店があおりを喰い、数が減っていくことも見てきた。その後、宮城興業に戻る前にイギリス・ノーザンプトンのバーカー社で、一年間靴づくりの修行をした。そこではこれまでのようなグッドイヤー式の紳士靴だけでなく、婦人靴の製造も教わり、宮城興業に戻ってからは多額の投資をして、婦人靴の製造工程をつくり上げた。この時のレディスラインが、今なお“ドル箱”と称される「エステー・リラックス」シリーズである。
「人間はもともと裸足で生活していた生き物です。足と靴のフィッティングを考えるときに“足はグラつかないようガッチリ固める”という考え方をする方が一般的。しかし、『エステー・リラックス』シリーズでは、揺れを吸収する“免震構造”のような仕組みのインソールを取り入れ、あえて足をサポートせず、裸足に近い状態を生み出しました。足が痛く歩けなかった女性がこの靴をはいたら、奇跡的に歩けたという報告を、接骨院の先生からもらったこともあります」(高橋社長)。
自信満々、商品を問屋に提案してみたところ、価格を希望価格の半分にしないと難しいといわれた。そこで悩んだ末、「100%買い取り」という条件で、全国の小売店に直接販売することを決意、リストを入手し、徹底的に“ラブレター”を出し続けた。結果、100店舗ほどの小売店から連絡をもらうことができたという。
この経験がきっかけで、宮城興業の中に、現在のような小売店と直接つながるという商売の仕方が定着していくことになる。

「抜き型禁止」から、カスタムメイドがスタート

すでに婦人靴でカスタムメイドを行っていたある社長との出会いをきっかけに、宮城興業も紳士靴でカスタムメイドの靴を手掛け始めた。最初は24~27cmまでの7サイズ、5種類の幅をそろえた「BASIC35」というブランド名でスタート。しかし、デザインを変えるたびに在庫が膨れ上がり、このやり方は既製靴の商売には向かないことがわかった。同じころ、工場の量産ラインはこれまでのようなロット数がまとまらなくなってきた。
そこで、これまで「抜き型」代だけで、年間数千万円かかっていた経費を見直すため、300足以上のロットにならなければ、革の「抜き型」を使うことを思い切ってやめ、すべて「手で裁断」することに決めた。
「社内からの反発たるやすごいものでした。革を切るには抜き型を使うものだとみんなが思い込んでいましたから。しかし、抜き型代は思いのほか高く、一足当り500円くらいは抜き型代として原価に載せる必要がありました。これを手で裁断すればその分抑えられ、しかも小ロットに対応ができ、職人の技術も上がります」。
この職人の手に頼った生産の一方で、「抜き型」を使わない最新式の自動裁断機も導入し、フレキシブルに一枚ずつ革を裁断できるようにしている。こうした取り組みが、少量生産・カスタムメイドに対応できる仕組みにつながってきた。

全国、200店ほどに広がるオーダー対応の店

宮城興業のカスタムメイドの仕組みは、同システムを導入している売場で「ゲージ靴」というサンプルをはいてもらうことから始める。そこからベストのものを探し出し、さらに「のせ甲」と呼ばれる微調整を行うことにより、ベストフィッティングを目指すというシステムだ。
売場では、最低でも30足のゲージ靴が必要となる(サンプルは100通り以上存在)。それに加えて、計測器やパンフレットなどを含めた「スターターキット」が宮城興業から用意される。製品はGWであり、ソールの貼り替えはもちろん、リペアまでサポートされる。
全国、200店舗ほどに広がっている同システム導入店は、靴専門店よりオーダーメイドのスーツ店が多い。スーツでの応対をそのままオーダー靴にも応用できたためだ。しかし最近は、靴専門店で新規に導入する売場が多くなってきたという。
カスタムメイドの紳士靴には、一つひとつに「和」「栄」「昭」「彦」など、クラシックな和名がついている。実は、現場で働く職人さんたちの名前から取ったものだという。カスタムメイドがなかなか社内で理解されなかったころ、自分の名前の付いた靴が売れたら嬉しいだろうと、高橋社長が苦肉の策で考えついたそうだ。

修行したイギリスからも注文をもらいたい

宮城興業には近隣の東北エリアだけでなく、関東や関西など全国から若い人が入社してくる。現場では、若手と50年以上のベテランとに世代が大きく分かれており、中間層はむしろ少ない。若い人がここで腕を磨き、いずれ独立してしまう懸念はないだろうか。
「彼らには『しっかり修行して、早く独立しろ』といっています。会社に魅力があれば残り、出ていく人は独立する。彼らはライバルになるのではなく、“仲間”ができると思っているので心配はしていません。ここで働き、学んだことを次の世代につなげてくれれば嬉しい」。
高橋社長が靴づくりの修行をしたイギリスには、今ではグッドイヤー製法の靴メーカーだけしか残っていない。そのイギリスの靴に負けないようなものをつくりたいと、いつも考えている。現在、同社の靴はアメリカ、カナダ、中国など6ヵ国に輸出しているが、まだイギリスには出ていない。これまでも飛び込み営業もかけたが全てNGだったという。
30年前、靴づくりではイギリスに叶わないと思い込んでいたが、今は勝っていると感じる。小量生産のきめ細やかさは、イギリスではできない「日本らしさ」だと思うからだ。
高橋社長は「いい靴の定義」とし、『はきよさ』と『デザイン』の両方のバランスが大切、という。これからも「GOODSHOES(良い靴)&RIGHTSHOES(正しい靴)」という考え方で、靴とともに日本の文化も提案し続けていく考えだ。


宮城興業
山形県南陽市宮内2200
TEL:0238-47-3155
http://www.miyagikogyo.co.jp