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クラークスジャパン
ファッションのフラッグシップ的役割を期待される日本市場

 「クラークス」は約200年前にイギリスで誕生したブランド。年間世界出荷数約5000万足を誇り、(スポーツシューズを除いた)ブラウンシューズブランドとしては、世界最大規模である。商品群は、アイコンであるデザートブーツ、ワラビーから、メンズのビジネス&カジュアルシューズ、歩きやすくファッショナブルなレディスシューズへと大きく広がっている。
世界的なネットワークを持つクラークスにとって、日本市場はどのように映っているのだろうか。
 「イギリス本社では、日本に対して、ファッションのフラッグシップ的な役割を期待しており、ここ数年は、アジアパシフィック市場のみならず、グローバル市場への貢献も求められています。実際、イギリス本社の会長、CEOも年に一回は日本市場を訪れ、これらの進捗、戦略などを議論しています」(クラークスジャパン・宮増浩社長)。
 クラークスジャパンは約30年前に設立された。リーガルコーポレーションやジーフットなどをパートナーとし、百貨店約250店舗、専門店約700店舗で展開している。販売の主体は卸で、このほかに直営のアウトレット店舗が10店舗。既存の「クラークス」ショップはフランチャイズで、こちらは全国に15店舗ある。

アウトドアからヒップホップまで、独自な路線でブランディング

 2014年11月にクラークスジャパンの社長に就任した宮増浩氏は、3つの改革を進めてきた。第一がブランディング、製品の改革だ。
約2年前にイギリス本社で新しいチーフブランドオフィサーが就任し、新たな方向性が示された。新しいカタログでは、大自然のシーンや、ヒップホップファッション的な着用例が見られ、機能中心でもなく、欧米ハイブランドの追随でもない、ヒップホップあることがわかる。
スニーカーとブーツの中間的なアイテムが登場し、カジュアルでスポーツ的な形で提案されている。スニーカーとカジュアルシューズを合わせたような「アスレジャー」タイプも、ヒール系ドレスシューズもある。ビジネスシューズでも、あえてスーツに合わせず、カジュアルにも対応できるようになっている。
インフルエンサーも米国、英国、カナダのヒップホップミュージシャンやダンサーを使っている。日本市場でも、このブランディングを定着させていく考えだ。


商品を三つのゾーンにセグメントし、販売チャネルも整理

 第二が、「セグメンテーション」だ。これまでは幅広いアイテム、価格帯が売れるショップに集中して卸していた。しかし、「経済環境は厳しいが、モノ、価格、場所、サービスが一致すれば売れる」という考え方のもと、製品と販売チャネルの整合性をはかっている。
製品のトップゾーンの「クラークス オリジナルズ」は、デザートブーツ、ワラビーなどコアなファンの多いが、製品品質を上げ(英国、イタリア、米国製造など)、価格を見直した(これまでの2万円台から3〜4万円台に)。このゾーンは今後、出店予定の直営店や渋谷店など一部ショップで販売する。
次のゾーンは従来の「クラークス」ブランドで、フランチャイズ店、百貨店を中心に展開していく。三つめのゾーンが「クラウドステッパー」で、こちらは大手ナショナルチェーンが主軸。上代は8000〜1万円で、高級スニーカーが採用している「オーソライトインソール」を使い、反発性が持続するため、はきやすいのが特色だ。最後にアウトレットゾーンが位置する。
 セグメンテーションは、ECサイトでも行われ、アマゾン、ゾゾタウン、ロコンドなど各サイトで商品を最適化している。
 専門店も同様で、立地条件や顧客をよく見直したうえで、もっともマッチした商品を卸している。
「専門店さまにも、期待に合うようなセレクトをしたいと思います。最終的に、専門店さまにもそこにいらっしゃるお客さまにも満足していただきたいからです。売れない商品、ちぐはぐな商品を入れても、長続きしません。2年間かけて取り組み、ようやく形になってきました」。
 セグメンテーションは、大手スポーツシューズブランドが取っている手法である。宮増社長が以前ナイキに勤務していたことと、無縁ではないだろう。

積極的なマーケティングサポートで、売場の顧客層も把握

 第三の方針が「現場主義」、「データ活用」、「自発性」の強化。これは日本独自のものだ。その目的は、店頭販売、接客、顧客満足度の向上にある。
 例えば、クラウドステッパーを販売するチャネルでは、競合は国内ブランドが多く、また、上代も当社のものが2000円くらい高い。そこで、自社の製品のどこが優れているのかを、明確に、短時間で示す必要があるという。
「『オーソライトインソールが特徴で、長期間はいてもへたりづらく、取り外し可能で、洗っても抗菌防臭効果が落ちません。長時間はくと疲れづらさも違います』などと説明して、ようやく立ち止まっていただき、試着、購入に至ります。スタッフがきちんとした接客ができることこそ、重要なポイントなのです」。
 このため、本格的にスタッフ教育に取り組み始めた。その中で気づいたことは、同じトレーニングをしても意味がないということだ。店舗や商品、個人のデータを見て「ファーストコンタクトが弱い、声が小さい」「お客さまのニーズを上手に聞き出せていない」などの改善点を把握し、具体的に指導することによって効果が上がってきたという。現在では四半期に一回、個人ごと、店舗ごと、商品ごとで表彰する制度を設けており、販売スタッフの励みとなっている。
 ただし、店舗は供給先のものである。そこで店舗販売をやらせてくださいとまず交渉する。店頭で研修活動を行うことは、店舗側とのコミュニケーションにもなるし、顧客層の傾向を知ることにもつながっていく。
 「マーケティングサポートも充実させようと取り組んでいます。卸だから販売して終わりというのでは決してありません。『ただ店頭に並べているだけのブランド』にしてはならない。こういうPOPを置かせてください、試着用のサンプルシューズを提供しますなどの提案もしています」。
 
データ活用のオムニチャネル化で、店頭のレバルアップ

現在、同社の年商は約40億円。上記3つの改革が奏効して売上げは好調で、アウトレット事業やEC事業も伸びている。
 宮増社長はECと実店舗のつながり、いわゆるオムニチャネル化に着目しており、ここでモノをいうのが「データ」であるという。
 「ECで好調でも店頭で売れていないものがあります。卸なので、セレクトされていないのです。昨年の秋冬には、もうヒールは終わったといわれましたが、ECでは復活してきました。こういう場合は、データで説得できます。また、ECで販売していない商材を手配して、お客さまに限定品ですとアピールするのもいいですね」。
 ECがあるから、店頭の売上げが落ちるといわれるが、宮増社長はそうは考えない。「EC顧客の住所の分布を見ると、裾野が広いロングテールになっており、都市圏外の比率も高く、実店舗とカニバリゼーション*を起こしている部分は、小さいことがわかります。ECサイトの機能は、実際の店頭接客に近くなるよう(検索、説明、比較など)進化していますが、店頭ではその上を行く接客ができると思います」。
 「たとえば、今日こういう商品が入りました、今日のお洋服にはこの靴がコーディネイトできます、といったように、ECよりももっとレベルがあげられると思うのです。これからは、よりパーソナルな接客が必要なのではないでしょうか」。
 こういった状況を踏まえ、同社では初の直営店の出店を考えている。その目的を「ブランド価値を高めていくこと」としており、多店舗展開をしていくつもりはない。さらに神戸、横浜、福岡でフランチャイズショップの展開を考えている。
 このほか、これまで伊勢丹新宿本店、大丸梅田店、アトモス渋谷店などで数多く行ってきたイベントやポップアップ・ショップも続けていく。近々では本社に近い表参道でのポップアップ・ショップを計画中だ。
 日本の市場に「最適化」したクラークス。すでに根強いファン層を確立しているだけに、今後大きく飛躍していきそうだ。


クラークスジャパン株式会社
東京都港区南青山3−11−13 新青山東急ビル11階
TEL:03−4510−2007




 ウイング(群馬・高崎市)  

大人のカジュアルスニーカーで全国展開を進める地方専門店

靴は3ブランドに絞って展開する業態店
 
群馬・高崎市に拠点を持つウイングは、全国に30店舗以上のスニーカーショップを展開している。スニーカーショップといっても、「スピングルムーヴ」「パトリック」「ティマイ」などのブランドを中心に、流行に左右されず、洗練された大人のファッションアイテムとしてのスニーカーを扱っている。
 同社は1987年、スポーツ用品店としてスタートした。その後、スポーツシューズを中心に商品構成を変えつつ、アメリカンカジュアルのアパレルも扱い始める。
 現在の大人のスニーカーを中心に展開し始めたのは、3〜4年前である。
 「商品構成の組み合わせで、試行錯誤していたときに、単純に商品を絞ると、お客さまからどのように映るのかと思い、商品構成を思い切って絞っていきました。そのときに、扱いのボリュームが大きくなったのが、スピングルムーヴ、パトリックといったブランドです」(平蜊P夫社長。以下コメントは同氏)。

立地環境や客層に対応した業態で多店舗化を進める 

札幌から沖縄まで、全国に広がる店舗は、「アルカヤ靴店」という店名を中心に展開している。拠点となる群馬県は店舗数が多く、直営店のほか、販売を委託している販売代理店舗も数店舗ある。
 商品構成は「スピングルムーヴが8〜9割の店舗、パトリックが8〜9割の店舗、ティマイがほぼ10割の店舗など、立地環境や客層によって異なってきます。もちろん、両方のブランドがバランスよくある店舗も少なくありません」。
メンズとレディスとの両方を扱っているところも多い。
 アルカヤ靴店熱海では、「パトリック」が多く、アルカヤ靴店高崎オーパは「スピングルムーヴ」が多い。また、インバウンドがよく来店するアルカヤ靴店湯布院では、シューズだけでなく、バッグやアパレルも扱っている。
 札幌や福岡など観光地+商業地といった場所が、比較的人が集まりやすく、売上高も大きい。
 店舗によって異なるが、現在、1店舗当たり、月100万〜300万円の売上高で推移している。



売上げはスタッフの人柄によるところが大きい 

「スニーカーブームの恩恵を受けているかもしれませんが、ブームに乗って展開する考えはありません。売上高の違いは立地にもよりますが、一番大きいのはスタッフの人柄によるところが大きいと感じています」。
 スニーカーで2万円台というのは、比較的高額になるために、この販売員なら信頼がおける、この販売員が勧めるなら間違いがないという誠実な接客の姿勢が、購入の決め手になることが多い。接客では信頼性や誠実性が重要になる。
 店舗の運営は、基本的にスタッフにまかせているので、スタッフたちにとってやりがいが大きい。
平蜴ミ長が各店舗のスタッフに話していることは、「過度なことを伝える必要はない、その商品のありのままを伝えるようにしよう」ということだ。
日本人の足型を研究し、究極のはき心地を追求してきた「スピングルムーヴ」や、いつの時代にも流行に左右されない洗練された「パトリック」といった、ブランドのブレないモノづくり姿勢とスタッフの誠実な対応が、そのまま顧客に伝わっていることが、販売につながっている。


業種ミックスで市場の変化に対応していく
 
店舗の内装やディスプレイでは、温かさとクラシックな雰囲気の木造りが基本となっている。商品はまるで木の本棚に収められているように、靴の顔が見える形で並べられている。
「他のスニーカーショップでは見かけない陳列をしたかったので、現在のところ、アッパーを前に、靴の顔が見えるようにしています。これは見やすくて、きれいに収まっていると思います」。
 しかし、この陳列方法にこだわっているわけではない。
「もっとよい別の陳列の仕方があれば、そちらに変えてもよいと思っています。むしろ、この形のまま、続くわけがないと思っています。お客さまがいつか飽きるときがきますから、変化をしていくことが必要ではないかと思います」。
 ディスプレイや演出に限らず、品ぞろえについても市場環境を見ながら、柔軟に変えていくという姿勢は、旗艦店でもある「ナインスタイルモータース」を見てもわかる。同店は、アメリカンカジュアル+「パトリック」と「スピングルムーヴ」の2店舗で構成する店舗だったが、昨年、レンタカーも加えている。幹線道路沿いという立地から発想したファッションを提案するレンタカーショップだ。
 昨年10月にオープンした店舗が、アルカヤ靴店高崎オーパ。高崎駅に隣接したSCに出店した「スピングルムーヴ」を主力とした店舗で、「こういうブランドがあったのか」という来店客の反応もあり、新たなお客を取り込み、予想以上の成績で推移している。
 「今後もよい物件を見付けることができれば、全国で店舗を増やしていく計画です」。
これからどのような進化を見られるか楽しみである。


ウイング
群馬県高崎市上大類町907-5
TEL:TEL:027・386・3122