今月の記事・ピックアップ 2018・4
 HOME > フットウエアプレス > インタビュー 藤原仁社長
インタビュー

藤原仁社長
(パイロットシューズ社長/全日本革靴工業協同組合連合会 会長)

標準化、効率化でマスカスタマイズシステム展開へ

婦人靴のパイロットシューズは2月26日、同社本社がある東京・東浅草に直営ショップ「ウィステリア・フジワラ」をオープンした。ビル1階に入る路面店の売場面積は10坪ほど。ショップ開設の狙いと全日本革靴工業協同組合連合会(全靴協連=ぜんかきょうれん)が進めている「i/288」(※1)ブランドの展開について、藤原氏に聞いた。
(※1) にぃはちはち ぶんの あい=“288通りのサイズから選べるわたしだけの靴”の意。


●リアル販売とeコマース対応の直営ショップ

――直営ショップオープンの狙いと商品内容からお聞きします。

藤原 ショップの「ウィステリア・フジワラ」は、柔らかな響きと女性的で幻想的なネーミングとして、新たに立ち上げたオリジナルブランドです。「ウィステリア」は花の藤≠ナ、「フジワラ」は海外では神秘的に映る富士山≠連想する言葉でもあります。日本の靴産業が輸出産業となることを目標とし、そのときにも通用するブラント名にしたいと考えました。
 商品はベーシックなデザインパンプスですが、これらは全靴協連が7年前から進めている「i/288」の革靴認証事業の靴型を使用してつくられています。まずは組合事業でプレーンな靴だけを展開して「自分の足のサイズ」を知っていただき、次にメーカー各社がデザインを提供してバリエーションを増やすことを計画しています。 
当ショップには、現在140サイズの靴をそろえています。この靴でフィッティングをし、そこからヒール高やデザイン、素材、カラーを選んでいただきます。効率よく短時間で自分だけの靴を商品化できる、マスカスタマイズシステム(※2)を目指すショップです。
(※2) マスプロダクション(量産化)のようにサイズを準備しておき、カスタマイズ(個のニーズ)のように対応できる生産・販売システム。


――靴がネットで普通に買われる時代になりました。eコマース(電子商取引)についてどのように考えていますか?

藤原 これからの時代、靴もeコマースで購入される機会がさらに増えてくると思います。そして、あらゆるものがネットで買えてしまうような時代になればなるほど、リアル店舗の必要性は大きくなっていくと考えます。
女性が靴を選ぶときのポイントは、美しさとフィッティングではないでしょうか。美しさはデザインやブランドイメージであり、自分をきれいに見せるために靴は恰好のアイテムと言えます。一方のフィッティングに求められるのは、履きやすさや健康であり、接客時の調整能力がとても重要になります。そして、後者を担うのがリアル店舗であり、今後、お客さまとの信頼関係を構築する上でなくてはならない場となります。
「ウィステリア・フジワラ」では、eコマースの利便性とリアル店舗でのフィッティング調整を同時に可能にする『お・も・て・な・し』で対応していくことが求められます。
また現状のフットプリントに加え、3Dデータによるフットスキャナーの導入を計画しています。市場に流通する靴の内寸法(※3)をデータ化し、お客さまの足も計測してデータ化することで、「このお客さまの足には、この靴が合う」とアルゴリズムの精度を高めて推奨できるようにします。結果的にお客さまは好きなデザインの中から仮の試しばきができ、フィット率も分かるようになります。これは世界的に開発競争が激化している最先端の技術で、靴の最大の課題である在庫問題を解消することにもなると考えています。

(※3) 靴型の寸法ではなく、出来上った靴の内形状の寸法。


●約3万円の靴を900足超販売した期限限定ショップ

――全靴協連が取り組んでいる、「i/288」の革靴認証事業とはどういうものですか?

藤原 「i/288」の革靴認証事業は、靴型や靴づくりの基準化・標準化をめざすことで「理想的な靴のサイズの選び方と履き方の啓蒙」を目的とした事業です。標準化された288種類の靴型でサイズを準備し、デザイン、素材、カラーなどは、お客さまの好みに沿ってカスタマイズしていくことができる。標準化された靴型に合わせて材料・パーツも標準化することで、省在庫・短納期での製造販売が可能になります。

――「i/288」の靴は、昨年秋から靴専門店のほか、百貨店のポップ・アップ・ショップで販売されていますが、どのような反応でしたか?

藤原 百貨店では昨年の秋に島屋の大阪店、玉川店、横浜店、日本橋店の4店舗で、「i/288」のポップ・アップ・ショップを展開しました。お蔭様で大阪店や玉川店では整理券を発行するほど盛況でした。4店舗の販売合計は900足超で約2600万円の売上げでした。大変な反響をいただき、有り難いことに他の百貨店からの出店要請もいただいています。
今春の「i/288」のポップ・アップ展開は、2月28日からJR名古屋タカシマヤで始まり、ここでも1週間で1000万円を超える売上を達成することができました。
そして、今秋からも大きなプロジェクトを計画しており、鋭意準備を進めているところです。

●「i/288」事業をさらに拡大し、輸出も見据える

――現在、革靴認証靴の靴型を使って生産しているメーカーは何社ですか?

藤原 現在は5社ですが、導入に向けて研修中のメーカーもあり、今後もっと増えていくことが予想されます。標準化された靴型で靴をつくるということは、材料・パーツについても標準化されているということです。現状のようにメーカーごとに材料の発注内容がバラバラでは、良い材料・パーツを調達することはますます困難になっていきます。同じ規格のパーツを複数のメーカーで使用するようになれば、クオリティの高い部材を使用することが可能となり、パーツメーカーにとっても効率が良くなり、共同して新製品の開発にも力を入れることができるようになると考えています。
このため、現在は、一般社団法人 認証革靴普及協会という法人会社を設け、参加メーカーに資材をデポジット制で供給・販売すると同時に、百貨店などでの販売窓口も担っています。このように共有化された生産・販売システムがさらに進化すれば、業界の目標である「メイド・イン・ジャパンの靴」を、もっと世界に発信していくことが可能になるのではないでしょうか。