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消費税アップを機に単独高級店に転身ヤマザキ屋は、松本駅近くの商店街に5階建ての自社ビルを持つ、大正年間に創業した老舗靴店である。旧日本陸軍松本連隊の将校用ブーツの製造に着手、浅草から靴職人を呼び寄せて工場と店舗を開いた。後にオーダー革靴に発展、軍隊関係のみならず、医師や警察官、役人なども顧客として大いに発展した。終戦を経て1950年代になると、革靴のみならず、ケミカル、運動靴など既成靴も幅広く扱うようになり、業容も拡大した。店舗は松本市内をはじめ、長野市にも支店を出すようになった。年商は伸び続け、1980年代には9億円を売上げた。 転機となったのは3年前、消費税が8%となったときである。売上げが急に下降気味になったときの、ヤマザキ屋は早急に転身した。支店を素早く売り、自社ビルの3階にある本店のみを残した。こうして同社は存続することができた。実際、かつて松本駅付近にあった十数店の靴店は、今や3店舗しか残っておらず、時代の厳しさを感じさせる。 高級ドレスからオーダー靴までヤマザキ屋のビルは、1階がフィットイン松本店、2階がリーガルシューズ松本店といずれもリーガルシューズのショップとなっている。ヤマザキ屋は3階に店舗を構え、特徴的な品ぞろえをしている。ことに目を引くのがメンズの高級ドレスシューズだ。イタリア製の「パオロ・スカフォーラ」は手縫いで、ステッチが三つ編みのようになっている手法のものと、やはり手縫いで「ノルベジェーゼ」製法のものがある。山﨑眞生夫(るび=まきお)社長が展示会で見初めたもので、インソールには「ペル・ヤマザキヤ(ヤマザキ屋のためにつくられた)」というサインが入っている限定品だ。 ハンガリーの「ブダイ」も手縫いで、同じく三つ編みのようなステッチが入っているが、こちらはドイツ語で「ツォップナート」製法と呼ばれている。いずれも10年ほど前から直輸入の形で取り扱いを開始している。 フランスブランドの「エシュン」は、まるでゾウの革のような型押しを施された革を使った靴が、いかにも珍しい。このほか「クロケット&ジョーンズ」「レッドウィング」などもあり、靴好きにはたまらないラインアップだ。 一方で、宮城興業のオーダー靴「和装良靴」も受け付ける。木型、革、ソール、カラーを選んでいくと、自分だけのオンリーワンシューズができあがっていく。 レディスの他、バッグ、ベルトも扱うレディスでは、「ティエリー・ラボタン」「フランソワ・ナジャ」などのフランスデザイナーによる高級シューズ、「アンディア・フォーラ」「キャンディス・クーパー」などのイタリア製の本革スニーカーが主軸となっており、「ピコリノス」もコーナーの一角を占める。国内ブランドではアサヒシューズの「トップドライ」「メディカルウォーク」などもあり、幅広い顧客層を維持していることがうかがえる。 店頭平台にはカラフルな財布やバッグ類が勢ぞろいして、来店客を出迎える。「ドアン」「モンテローザ」「サヤ」など国内ブランドも多く、価格も手ごろでよいアイキャッチになっている。 2万円台ボリュームに10万円を超すものも「お客さまは、以前からの方々が多いです。年代では50代から70代というところでしょうか。オーダーシューズには、若いお客さまもついています。松本の方だけでなく、長野、伊那、諏訪、上田など県全域から来店されます」(山﨑社長)。商圏が広いのには、理由がある。松本はそれほど大きな街ではないが、城下町であり、昔からよい商品がそろう場所であった。高級品を扱う店舗が多く、それを目当てに県内各地から人が集まってきたのである。それが松本の土地柄であり、伝統だ。 ヤマザキ屋もこういった土地柄だからこそ、この品ぞろえが受け入れられるのだ。手縫いの靴なら、10万円は超えてくる。ボリュームゾーンに1~2万円の国内ブランドを据えながらも、芸術品のような高級靴を置くこだわりのショップである。近年ではホームページを見て、遠方からやってくるお客も増えてきた。 こだわりは、ほかにもある。シューケア用品が充実しているのだ。コロンブスの「ブートブラック」シリーズは全色そろえている。 「楽しさを失わないように、少しずつ新しい商品を入れていきたいと思っています。この商店街も、高級化と専門化を追求して生き残ってきました。松本が商圏の広い町だからこそ、やってこられたのではないでしょうか。これからも、楽しさを失わないように、新しい商品を取り入れていきたいと思っています」。 靴好きをうならせる高級靴店である。 ヤマザキ屋 松本市中央2-3-22 TEL:0263・36・3261 |
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