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注目企業インタビュー 藤樹賢司氏(ロコンド 取締役兼営業本部ディレクター)

靴ならなんでもそろうECサービスとプラットフォーム事業で規模を拡大


 創業から9年。靴のECからスタートしたロコンドは、いまやバッグやアパレルも扱うファッションEC大手に成長した。会員数は現在230万人。2018年度の取扱高は141億円、売上高は67億円。ともに前期を大幅に上回る数字だ。ロコンドではいま何が売れているのか。どのような施策でリピーターを増やしているのか。取締役兼営業本部ディレクターの藤樹賢司氏に聞いた。

働く女性に高額パンプスが売れる

 「まず2018年度の実績をお話します。取扱高は前期比148%増の141億円、売上高は169%増の67億円を達成しました。認知度向上を目的としたTVCMなど広告宣伝費が増加したため、営業利益は9億8000万円のマイナスになりましたが、これは計画の範囲内の数字です。
 売上構成は靴が75%、アパレルが15%、バッグが10%。19年度の売上げ目標は225億円、20年度は300億円を掲げています。トータルでの扱いブランド数は約2200。そのうち約半数が靴のブランドです。ブランド数は年々増やしており、目指すは『靴であればなんでもそろう店』です。今後も充実させていく計画です」。
 「靴の客単価は約8000円。カテゴリーの中ではスニーカーが好調です。ナイキやニューバランスといった大手ブランドは引き続きよく売れています。スニーカー以外で好調な動きを示しているのがパンプスです。レディスの靴のうち、実は売上げの約2分の1がパンプスで占められています。ロコンドの客層は男女ともに30?40代。仕事でパンプスを履く機会が多い年齢層が中心のため、パンプスの売上げを押し上げていると見ています。
 パンプスの人気ブランドはファビオルスコーニやECCOなど。前者はコレクションが多く、商品点数が多い。バリエーションの豊富さが人気を牽引しています。平均単価2万円前後と決して安くはありませんが、ロコンドは百貨店ブランドがもともと強いので、ファビオルスコーニのようなブランドも抵抗なく買われるお客さまが多いようです」。



返品送料無料とカテゴリー検索が好評

 「以前は高額の靴はネットでは買わないという傾向がありましたが、返品送料無料サービスがトライアル的な利用を促進してきた結果、ハードルは確実に下がりました。最近では一度に2足、3足と購入する人も少なくありません。リピート購入率も高く、80%におよんでいます。
 メンズのビジネスシューズも、単価12万?16万円ほどの高額インポートブランドが好調です。例えば、米国のオールデン。靴にこだわる男性から支持されているブランドですが、ロコンドのようにオールサイズを取りそろえている店はほとんどありません。自分に合うサイズを見つけやすい点が受けている要因の一つでしょう」。
 「ロコンドは、商品名ではなくカテゴリーで検索して訪れる方が多いのが特徴です。『スニーカー』『パンプス』『サンダル』といったキーワードでサイトに流入し、そこでカタログのように商品を見比べて買いたい靴に絞り込む。こうした購買パターンが目立ちます」。


サイズ在庫が必要な靴こそEC向きの商材

 「靴はお客さまのニーズにこたえるためには、サイズを幅広くそろえなければなりません。しかし、物理的な制約があるため、在庫を豊富に持つことは難しい。常に欠品の恐れがあります。しかも、お客さまからすれば、店に行ってみなければ本当に商品があるのかないのか、わかりません。たくさん試着しようと思っても、ストックを取りに行ってもらう手間や時間もかかります。
 その点、ECなら自分がほしいサイズの靴があるかどうかが画面ですぐにわかり、靴を数点注文したら、自宅で気兼ねなく試着できます。いろいろな服と合わせてコーディネイトすることも可能です。この『気兼ねのなさ』がECの一番の魅力であり、ECが靴の販売に向いている点だと思うのです」。
 「靴をネットで買う利便性については、かなり浸透してきたように思います。弊社ではコンシェルジュサービスを取り入れて、お客さまの疑問にはいち早くお答えしてきました。このサービスもECでの靴の購入の敷居を下げています。
 お客さまはマイページで、コンシェルジュとチャットでのやりとりが可能です。このチャットが非常に好評ですね。『返品するにはどうしたらいい?』『返金されるのはいつですか?』といった疑問がわいたら、メールよりもチャットでいますぐ聞きたいと考える方が多いのです。靴についてわからないことをすぐにチャットでぶつければ、すぐに返事が返ってくる。この即時性の高いサービスは、LINEやメッセンジャーに親しんでいる現代のお客さまには欠かせない機能でしょう」。

在庫体制を整えCM放映を強化

 「昨年3月からは、『自宅で試着』できるサービスを広く知らしめるために、CM放映を始めました。ロコンドの創業直後に一度CMを入れていましたが、8年たってまたCMを始めた理由は、プラットフォーム事業を率先して構築した結果、商品をお客さまにスムーズにお届けできる体制が整ったためです」。
「ロコンドでは商品の約90%は倉庫で保管する委託在庫ですが、物流倉庫受託や自社公式ECの支援事業などを通して、在庫をシェアリングすることで、ショップ様の在庫リスクは大幅に軽減しました。CMを見たお客さまから一気に注文が入っても、欠品が出ない状況を整備してからCM放映に踏み切ったのです」。
 「東京と関西限定でまずCMを打ったところ、他の地域との差が明確に出て、売上げも上がったため、全国放送に切り替えました。今年3月21日からは新バージョンのCMを打っています。CM放映後は全国的に新規客の開拓につながりました。CMの効果を実感しています」。


プラットフォーム事業をさらに強化

 「ブランド側はできるだけプロパーな値段で販売したいと考えています。こうしたブランド側の意向も考慮して、ロコンドではラグジュアリーブランドだけを扱い、クーポンを訴求しないサイト『ロコンドデパートメント』を開設しています。
 また、以前はあったポイント制度をいまはやめ、そのかわりにレビューを書くと『ロコンドおみくじ』機能を追加しました。商品購入1点でレビューを1回記載すると、くじを引くことができるもので、ポイントではなく、ゲーム性の高い機能でお客さまに還元しているわけです」。
 「今後もこうしたロコンドらしいサービスに力を入れていくほか、プラットフォーム事業もさらに強化していく方針です。具体的には、他社のブランド直営EC支援サービスや物流倉庫の受託業務、クラウド型の基幹システムといったプラットフォームサービスです。すでに約20社の直営ECサイトの支援を行っており、今年3月にはマドラスさんのEC支援事業もスタートしました」。

卸システムのムダを改革したい

 「靴業界の卸システムを革新するプラットフォーム『ロコンドホールセール』にも着手します。私たちが考えているのは、メーカー⇒問屋⇒小売店⇒消費者にいたるまでのサイクルを、ワンステップで管理できるシステムの構築です。
 地方の靴小売店の場合、出張で展示会に足を運び、そこで発注をかけていますが、EC内で商品を調達できる仕組みを整えれば、もうわざわざ出張せずに済みます。さまざまなブランドの仕入れも一気に可能になります。
 『ロコンドホールセール』は今年の夏のリリースを予定しています。この業界には古い慣習が残っており、デジタル化もいっこうに進んでいません。たくさんの『ムダ』が横たわっています。この『ムダ』をなくし、データの一元化を進め、靴業界のデジタル化を推進していく考えです」。