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注目企業ジー・エム・ティー

ブランドセレクト力と巧みな流通戦略で靴インポーターの地位を確立

 トリッカーズ、アイランドスリッパ、ペルティーニ。独特の世界観をもったハンドメイドの上質なブランド靴の輸入販売や、シューズショップの運営を手がけるジー・エム・ティー(東京・渋谷区)。流通業の変化を冷静に見据えながら、巧みな経営戦略で同社を率いる代表取締役の横瀬秀明氏に、現状や今後の展開について話を聞いた。

卸が減り、直営の売上げは25%の比率に

 「現在、弊社はトリッカーズ、アイランドスリッパなど全部で12のブランドを扱っています。店舗は8つの直営店のほか、12の百貨店の平場にコーナーを設けています。
 今期の売上げは30億円。過去5年間、ほぼ横ばいの数字ですが、チャネル別の売上げ構成比は以前とは大きく変化しました。5年前に主力だったのは、ビームスやユナイテッドアローズに代表されるような、セレクトショップなどへの卸でした。当時は60%を占めていましたが、現在は45%の比率に減少しました。逆に直営店での売上げは10%から25%へと大きく伸びています。一方、百貨店の売上げは30%と変化はありません」。
 「卸が減少したのは、当社のブランドのような高額レンジの靴を扱うセレクトショップが低迷しているからです。総合的に集客力が高い伊勢丹新宿本店や阪急梅田店は別ですが、百貨店の集客力も落ちる一方です。しかし、百貨店に売場があることで、当社のブランドを知ったという方も多いので、百貨店については接客技術の高い販売員を育成し、これからも着実に売上げを確保していきたいと考えています。
 おそらく今後の百貨店は、専門性の高い商品が集積する場となり、これまでのような「百貨店のファッション」はなくなっていくのではないでしょうか。SNSを通じてブランドを知り、商品を手にとってみたくなったお客さまの、ショーケースとしての機能が高まっていくように思います」。


販売員教育の充実で、直営店をさらに拡大

 「卸型から直販型へのシフトを進めたことで、利益率は大幅に改善しました。また、物流を見直し、2017年の12月に自社の物流センターを開設したことも、収益の向上に貢献しています。
 直近の直営店舗では、4月にオープンしたトリッカーズ青山店があります。今年は秋口にもう1店オープンの予定です。直営店を強化していく上で重視しているのは販売員の教育です。直営店に来店するお客さまはブランドに詳しく、販売員には百貨店以上に高いスキルが求められます。トリッカーズであれば、これまでどんなコラボ商品を出してきたのか、別注にはどのようなものがあったのか、今後はどういった商品を出していく予定なのか、マーケティング的な情報も提供して、お客さまの期待に応えていかなければなりません。そうしたスキルを備えた販売員の育成は大きな課題の一つです。
 直営店の出店基準は、その土地に物語があること。地名もブランドのアイデンティティの一環。東京の表参道や青山、原宿、六本木のように、バックグラウンドがブランドの付加価値として機能する場所を選定し、出店しています。目黒区青葉台と港区南青山とでは、醸し出される情景が異なりますよね。それぞれのブランドにふさわしく、価値を生み出せる場所への出店が、SNSの時代の集客の決め手となるのです。
 大阪では南船場が非常に面白いロケーションだと思います。東京に南青山にイメージが近く、パラブーツなどの店も南船場に出店しました。場所によって異なるお客さまの目線を意識しながら、これからも出店を続けていきます。


靴の生産過程や物語を伝えていく

 「現在12ある扱いブランドの中で、特に好調なのがトリッカーズとキャラハン、ジャランスリウァヤの3つです。
 トリッカーズの平均単価は約7万7000円。時代によって人気にムラはありますが、いまはファッショントレンドとの連携で高い人気をキープしています。スペイン発のキャラハンの単価は約2万4000円。2018年から扱い始めたモカシンシューズのブランドですが、スニーカーのムーブメントの中、形はスニーカーで履き心地は、コンフォートシューズのような革靴が人気を集めています。見た目にはわかりませんが、6cmほど身長が高くなる特殊構造も支持されています。ジャランスリウァヤの平均単価は約3万2000円。シンプルながら価格とクオリティのバランスが非常に良いこと、足へのさわりが優しいことから、スニーカー世代に支持されているブランドです。
 ブランドごとに人気には多少濃淡はありますが、弊社が扱っているブランドに共通するのは、いまでもハンドメイドで、しっかりとしたモノづくりを続けていること。ただ靴を売るだけではなく、どのように作られているのか、作り手の人物像や歴史、物語なども含めてお客さまに伝えていくのが私たちの役割です。
 今年5月からは新たにしくイタリアのレディスブランド、レネ・カオヴィラがスタートします。2008年までは銀座の並木通りに店があり、たくさんのファンを獲得していました。スワロフスキーを使い、かつストリートファッションに合わせたデザインには、海外セレブのファンが多く、日本以外ではブームを巻き起こしています。平均単価は15万〜16万円。日本でも、マノロ・ブラニクやルブタンのようなトップレンジの靴が定着してきましたから、よりエッジのきいたレネ・カオヴィラも受けいられると確信しています。
 既存のブランドの中では、スペイン発のペルティーニに期待をかけています。スペインの伝統と革新が融合している面白いブランドです。独自の魅力をお客さまにもっと訴求していきたいですね。

好反響のポップ・アップ・ショップ

 ブランドの世界観を伝えていくために弊社では、セレクトショップや百貨店でのポップ・アップ・ショップを1ヵ月に12〜13回ほど展開しています。といっても単に売場を借りて売っているのではありません。内装から什器まで作り込み、ブランドの魅力をお客さまに体感していただける空間に仕上げています。アイランドスリッパの場合は、ヤシの木やプランターを設置し、グリーンの芝生まで敷いて、ハワイ生まれのブランドの個性を訴求しました。制約があって芝生を敷くのが難しい店舗では、イーゼルでポスターを張り出すなど、なんらかの効果的な方法を講じています。
 ポップ・アップ・ショップの期間は1週間〜1ヵ月。反響は非常に高く、今年のGWに阪急メンズ東京に出したジャランスリウァヤのショップでは、1日に20足以上もの売れ行きを記録しました。百貨店の平場では1日2足程度ですから、約10倍です。
 集客力を上げるために効果を発揮しているのが、さまざまな媒体での告知です。一つは新聞への全面広告。例えば、アイランドスリッパのポップ・アップ・ショップの際には、朝日新聞に全段1ページの広告を打ちました。さらに雑誌やフライヤー、専用のホームページも開設し、集客のチャンスをより多く作りました。また、得意先のホームページやSNSでも発信してもらい、百貨店のお客さま通信のような媒体での紹介も欠かしません。
 ポップ・アップ・ショップはブランドを訴求するには有効な方法です。とはいえ、百貨店の平場に商品を置くことも大事。「あそこにいけばいつも商品がある」という事実は、お客さまの信頼感に直結するからです。
 百貨店の平場、直営店、ポップ・アップ・ショップ。この3つのチャネルで吸い上げたお客さまの生の声は、しっかりとした根拠とともにブランドに伝え、次の商品戦略に向けてネゴシエーションしています。バイヤーやデザイナーと連携して、お客さまのニーズに沿ったモノづくりを進められるのは弊社の強み。そのブランドならではの個性や特殊な構造、技術などをクリエイターに紹介し、コラボモデルにつなげる協業モデルも、私たちの得意とするところです。今後も自社の強みを生かしながら、ブランドの魅力を最大限に引き出すことのできる店作りや売場作り、人材育成に力を入れていきたいですね。