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企業レポート 谷口化学工業所(ライオン靴クリーム本舗)

創業1910年。職人技と手作業から生まれた高品質な靴クリーム

試行錯誤から生まれた伸び、艶が出るクリーム

 創業1910年、靴クリームメーカーとしては歴史を誇るのが「ライオン靴クリーム本舗」の商標で知られる谷口化学工業所だ。手作りにこだわり、そこで培ってきた経験と技術、職人技をもとに、高品質な製品の製造を行っている。
 主力となる看板商品は「エクセレントシリーズ」の「乳化性靴クリーム」。これは2年前にリニューアルしたことから生まれたもので、改良にあたっては伸びが良く∞艶が出るようにする≠アとを重視した。

「油脂と水分量、蝋の種類を見直して、配合の割合なども追求し、最終的にはひっかかる感じがなく、スーッと伸びてゆく塗りやすさを実現しました。お客さまからも好評をいただいています」(谷口弘武代表取締役専務)。
 市場から評価されている点がもうひとつある。それは「香りがいい」ということ。石鹸のような香り≠ェあふれる靴クリームは、香料メーカーと共同開発した独自のもので、このオリジナルの香料は「エクセレントシリーズ」全製品に採用している。
ブランディングの面でも効果を発揮しており、“香り”というわかりやすい点をブラッシュアップしたことで、“革に良さそうなイメージ”を醸し出している。
 容器も同時に改良し、乾燥のスピードを低減させることで、クリームの寿命も伸ばしている。改良前は1年ほどで、中身の表面に変色が見られることもあったが(使用には差し支えないが)、今では製造後2~3年は変色や劣化が防げるようになった。

100年以上続く「3度注ぎ」の手作業

 製品の品質向上に努める一方で、クリームを瓶に注ぐときは手作業で、3回に分けて行う。これは同社が100年以上続けている「3度注ぎ」と呼ばれる充填方法だ。
クリームは熱で溶かした状態で注がれるが、これを1回で注ぐと下部は熱く、表面だけが固まってしまう。これが表面に凹みを生じさせ、光沢感やツヤ感を失わせる原因になる。一方、時間を掛けて何回にも分けて継ぎ足しをすると、充填した部分の表面が乾燥し、蝋の収縮がはじまり、やはり凹みができる。こうしたムラを防ぐため、注ぎは適度な間を置きながら、タイミングよく複数回に分けて行う。これが「3度注ぎ」である。
「とくに3回目は1~2ミリ単位で注ぐことで、固まってはいますが、乾燥はしていないという状態にします。そこで密閉することによって、表面に光沢やツヤ感ができ、きれいなマット状となったクリームをお客さまにお届けできます」。
 現在、同社が扱っているアイテム数は約150。靴クリーム、ワックス、クリーナーと靴や革製品にかかわるケア用品を全般的につくっている。圧倒的に強いのがやはり靴クリームで、1日の生産数は、靴クリームに換算すると約800個分となる。


百貨店への販路拡大やコラボ商品開発も

 主要販路は大手小売りチェーン、ホームセンターなどの量販店だったが、改良後の新しいクリームは、都心部の百貨店やロフト、東急ハンズ、マドラスの直営店にも納入している。
「百貨店さんには興味をもっていただいています。これまでマーケティングなどできていませんでしたが、今後は広告にも力を入れたいと考えています」。
 新たな販路開拓のために、もうひとつ商品を準備している。これまで自衛隊にのみ直販していた「イーグルメダルシリーズ」だ。過酷な環境の中で使われるブーツをケアするクリーム、クリーナー、ワックス、ミンクオイルなどがある。ブーツ専用につくられたもので、少し塗りづらさはあるが、艶が早く出せるという特徴がある。現在の200グラムサイズを40グラム程度にして市販化を計画中だ。
 業務を少しずつ拡大しつつある同社だが「手作業のもの作りは、これからも変えるつもりはない」との方針だ。この点が注目され、コラボ商品の依頼もあるという。
「最近は革靴メーカーから『自分たちのブランドでケア用品を出したい』という依頼もあり、最低300個から受注を受けています。当社は手作業なので、小ロットで対応できることが強みになっています」。
 「あくまでもいいモノを第一に作る」という職人気質は、知られるようになってきた。今後は製品の信頼性とブランドの浸透を図っていく意向だ。

▽東京都墨田区東駒形4-14-2
TEL: 03−5611−7351