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かばん工房 遊鞄01(ゆうほう ぜろいち)

豊岡の鞄メーカー3代目が仕掛ける、オンラインで作るオーダーかばん

この新型コロナウイルスの影響で、業界内でも様々なサービスがストップしてしまった。だがそれを逆手にとって、新しいサービスをスタートしたのが「かばん工房 遊鞄01」だ。

新たにオープンした150坪の体験工房

豊岡で鞄の製造販売を行う株式会社昭栄は7年前から、三代目である坂井一樹さんと妻の宏美さんが、一般の人がかばん作りを体験できる工房を運営している。観光スポットでも有名な出石城跡の近くにあり、革小物やトートバッグなどを作ることができる本格的な体験工房と小売りを併設した店舗だ。昨年までにはツアーバスや城崎観光などと組み合わせ、約5,000人がここに立ち寄ったという。
一般の人でも革のポーチやパスケース、トートバッグなどが作れるが、徐々に本格的なものも作りたいという声をうけ、出石町に約500uという広さを誇る「遊鞄01」を、5月30日にオープンした。100人が同時にかばん作りを体験することができ、リュックやビジネスバッグなど複雑なものまで、“お客自身の手で作る”というユニークなシステム。スタッフがそばで懇切丁寧に教え、技術を要するハンドル部などは職人がサポートすることで完成させる。体験したお客さんの達成感もひとしおだという。
ただ、このコロナ禍で体験申し込みはすべてキャンセル。ただ海外からの受注時にテレビ電話を使っていた体験があったことから、「オンラインでのオーダーメイド」というアイデアが浮かんだという。坂井さんにお話を伺った。



ZOOMで作るオーダーかばん

「多くの方にかばん作りを伝えてきた経験を踏まえ、より本格的なかばん作りができる広い工房を建てることを決意しました。しかし5月末という、コロナの真っただ中でのオープンとなりました。
工房の予約はまだ入りませんが、ふと“オンラインでお客さんと対面でオーダーを聞けば出来るのではないか”と思い立ち、ZOOM(オンラインミーティングツール)を使って、革サンプルや金具を見せながらオーダーメイドのかばんを製作しています。事前に記入してもらった受注票をもとに、用途やサイズ感などを詳しくお尋ねしながら、工房内にある基本サンプルを基に製作しています。中には、制作過程を見たいという方もいらっしゃるので、その時は中継でお見せすることも可能です。」と話す。
トートバッグで2時間、ビジネスバッグやリュックは4、5時間程度で完成する。自分の好きな色を選び、機能をカスタムすることもできるため、表と裏を違うカラーにしたり、ペン差しを中に付けたりと自由な発想で楽しんでいるという。
「自分は本格的な職人ではなく“パフォーマー”だと思っているので、こういうユーザー目線のアイデアが浮かぶのだと思います。
お客さんが『ここをこうしたい』という意見でも、職人は『それは強度が不足する』『それは無理だ』と言ってしまいがち。でも自分たちは決してNOとは言わず、『もしかしたら少し強度が足りないかもしれませんが…』と添えれば、お客さんも納得してくれます。描かれているイメージを形にすることで、お客さんの満足度は高まります。
喜んでくれることをとことん追求すること。うちでは各SNSもやっていますが、ほとんどがリピーターの方からのメールやお電話からの申し込みが多いんです。」と坂井さんは熱く語る。



かばん作りと一緒に革作りも知ってもらう

新しい工房には、ミシン、漉き機、クリッカーなどの各種設備が25台ほど用意されている。リースはなくほぼ坂井さんが購入したものだ。またお客さんの要望に応えられるよう、姫路からの色とりどりの革サンプルも揃う。
価格は「センチ単価」という独自の単価を採用し、横・高さ・マチ幅の合計を単価に掛け算する。業界の“デシ単価”ではお客さんはピンと来ないので、ざっとどのくらいの値段になるのかが素早くわかるように、坂井さんが考案したとのこと。シンプルな革のトートであれば15,000円前後。基本の革のビジネスバッグも50,000円以下で完成する。
「小さい頃から、かばん工房の中で革に囲まれながら育ちました。自分の遊び場だった場所を失いたくないという気持ちで、今は“かばんの街豊岡”を盛り立てようと奮起しています。
バッグはアパレルと比べると非常に小さいシェアです。ファッションを考える際、バッグは後回しになり、服の引き立て役になりがち。むしろ私たちはバッグを前面に押し出し、自分の手で作ってもらうことで“バッグに合わせたファッション”を考えてもらえるのではないかなと思っているところです。」
 体験に参加される方の中には、かばんが工場で自動的に出来るものと考えている人もいる。また一枚の革がどう生まれるかのプロセスを知らない人も多いので、壁のディスプレイでは姫路の革工場で撮影された動画を流している。かばん作りの奥深さを知ることで、また次も来たいというオファーに繋がっている。
「コロナを経て、業界は世代交代のチャンスを迎えていると思います。ベテランもフリーランスも、平等にかばん作りに挑戦できるような場を、『遊鞄01』から提供していきたいと考えています。」と坂井さんは語る。

◆「遊鞄01」豊岡市出石町町分129-1  0796-52-5055