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特集 接客が好き!

助野史子さん(オデット エ オディール 丸の内店 店長)

お客さまの状況にすぐ合わせる「気づき」の接客

リラックスして心地よく、買い物を楽しめる雰囲気に

 ユナイテッドアローズ(UA)が展開するシューズショップ「オデット エ オディール」丸の内店は、新丸ビル3階にあり、周辺のOLたちの人気店となっている。助野史子さんは、2018年にこの店舗に店長として赴任した。12年に文化女子大学を卒業して入社した助野さん、以後銀座や六本木ヒルズのオデット エ オディールの店頭に立ってきた。
 助野店長は、接客で大切にしていることが2つあるという。
 「お声掛けとお客さまとの会話です。距離をいきなり縮めるのではなく、心地よく商品を見られるような雰囲気づくりを心がけています。お好みやご予定などをうかがいながら、少しずつ距離を縮めていくようにしています」(助野店長)。
 助野店長の最大の武器は「気づき」だ。お客との空気感を重視し、「その方が何を求めているか」を的確に読み取る。昼休みに財布だけ持って来店する人には「お時間大丈夫ですか」とうかがい、スピーディに接客、「配送のお手配をいたしましょうか」と提案する。会社に大きな包みを持って帰れないことを察したうえでの気配りだ。
一方で「ゆっくりと買い物を楽しみたい」という人には、リラックスできるような会話を心掛け、仕事やお悩み、探している靴のことなどを少しずつ聞き出していく。


UAの服とともに世界観を表現

 トータルコーディネイトも接客ポイントになる。
 「お客さまからウエアに関する質問もあり、靴だけの接客にならないようにしています。UAのお店がそばにあると、UAのショッパーを持ったお客さまがいらっしゃることも。そんなときは、『何を買われましたか』とお聞きし、『それならこちらのブーツはいかがでしょうか』など、トークのきっかけにもなります。UAのお店から、接客したスタッフが付きそってくることもあります。世界観が同じなのでコーディネイトしやすいのです」。
 とはいえ、悩みの種はやはりコロナ禍が収まっていないこと。人との接触に神経質になっている場合もあるので、足を触るときなどは「失礼いたします」「足を触っても大丈夫ですか」などと、一言添える。マスクを着けているので互いに表情が見えないことにも留意し、目でしっかり笑ったり、声のトーンを明るくし、またマスクの中で声がこもってしまわないように心がけている。

接客時のフォローや業務にも感謝の気持ちを忘れずに

 スタッフは助野店長を含めて5人。助野店長は日々OJT(オンザジョブトレーニング)でスタッフ教育に当たり、接客を指導する。そのときは、「こんな言葉をかけたらさらに喜んでいただけたよね」「他にもこのような提案の方法がありますよね」や「先ほどのお客さまが、ぽろっとこう仰っていたので、そこを拾えていたらもっと早く提案できていたね」など、次の接客にすぐ生かせるように、フィードバックすることを大切にしている。また、気づいたときに言うことでスタッフも理解しやすく、次の接客にすぐ生かせるので、なるべくその場やその日に伝えるようにしている。
毎月、スタッフとの個人面談もあり、接客を振り返って「3ヵ月後はこう改善できていたらいいね」と、目標を持ってもらう。ただ、売上げが伸びても、自分の顧客がなかなか増えないこともある。自分なりの接客の強みをだしていけばいいのだが、すぐにはうまくいかない。自分の接客を客観的に見られ、評価できてこそ、次のステージへと昇れるのだ。
 助野店長の目標は「お客さまへの気付きを共有できる体制にすること」。新メンバーも増えたので、お互いを自然にフォローしあえる体制を作り、「気づきの接客」をさらに磨いていきたいと考えている。 


東京都千代田区丸の内1−5−1
TEL:03・5224・8016



生嶋時彦さん(ボエーム プリュス ボーデッサン代表)

「〇〇さん」と呼べる顧客を増やし、真のコンシェルジェ目指す

ボーデッサンの世界観を来店客に伝える店

「自分にとっての?はじめの一歩≠表現しました」と、店舗前の玄関に掲げられた、ビブラムソールが染め抜かれた赤いのれんを説明するのは「ボエームプリュス ボーデッサン」の生嶋時彦さん。コロナ禍においても、この空間を愛するリピーターや、インスタグラムのファンの方々に支えられている店だ。
生嶋さんは1979年、国産のオリジナルブランド「ボーデッサン」を、坪敏晴社長のもとで立ち上げている。当時、OEM中心だったバッグメーカーの在り方を見直し、大量生産にはできないものづくりを目指したもので、以後30年余りをブランド育成に力を注いできた。
2017年に「ボーデッサン」を定年退職し、東京・谷中のやや奥まった場所に、8坪の小さなショップをオープン。「自分が居心地のいい店を作りたい」というように、ヨーロッパ各地のお土産品や雑貨、小物などが渾然一体となった、オンリーワンの店舗である。
 作り手出身でもあり、専門店らしい「接客」をすることには縁遠かったという生嶋さん。とにかく自分の好きな「ボーデッサン」の世界観を、来店された方に伝え続けてきたことに尽力している。

「空気感、商品、店主」を好きになってもらう

ディスプレイが大好き、という生嶋さん。「どれが販売商品ですか?」と聞かれるほど、自身が好きなものを店内のあちこち置いていいる。
「オープンから3年がたちましたが、ご夫婦での来店やお友達を連れて来られるなど、徐々にリピーターの方も増えてきました。完璧な接客ができている訳ではないですが、先日はグーグル社から?接客力が高い店≠ニいうことで取材を受けました。来店された方がグーグルに書き込んでくれたようで、お客さまに陰ながら支えていただいているようで有難いです」。
同店が大切にしていることは、お店の?空気感、商品、店主≠ェ三位一体になっていること。「この雰囲気をお客さまが?好き≠ニ思っていただけたら嬉しい」と、生嶋さんは照れたように話す。
 この店舗が他と圧倒的に違うのは、ディスプレイや商品もだが、オープンからほぼ毎日続けているインスタグラム投稿。「娘がやったほうがいいとアドバイスするので…」と60歳の手習いで始めたが、今では毎朝店を開けるとインスタグラムの撮影から始める。ボーデッサンの製品と生嶋さんが持つ世界観が相まって、ファンが増加。フォロワーは現在3813人、投稿数は1300にのぼる。この投稿を見て来店された方も数多い。

売場に立つことで顧客との繋がりを保つ

 生嶋さんは現在、改めて「ものづくりの人たちを応援したい」という想いから、オリジナルを手掛けてもらっている小さなメーカーさんと、ダブルネームのアイテムを制作している。銀座和光で開催した催事の際には、自店と和光でしか扱っていない限定品を展開した。
「やる気のある若い職人さんが頑張っているが、このコロナで卸からの注文も減り、先が見えず悩んでいます。そんな時こそ、自分たちからの発信が必要と考え、ダブルネームを提案しました。銀座の百貨店に自分のタグのついた商品が並んでいるのを見て、彼らの目の輝きが変わり、自分たちもここまでできるんだ、という気持ちになってくれたようです」と生嶋さん。銀座和光では2日間、販売に立ったが、その際の接客も大いに学びになったという。
「和光さんのスタッフは皆さん、自身の顧客をお持ちで、お客さまのクローゼットの中身もよく分かっています。お互いに信頼しているからこそ、顧客もスタッフ個人についています。フロアを横断してお客さまを売場にお連れすることも多く、本当の意味のコンシェルジェだと思いました」。
 「〇〇さん」と呼べるお客さまが何人いるか。それがECと差別化できる点ではないか、と生嶋さんとは話す。そのためには、「人を雇ってお店を任せることは違うんじゃないかと思う。自分がいつもここにいて、お客さまとつながっていることが、この店の強みだと思います」。
 今日も生嶋さんは仕事が終わった後に、中庭でウイスキーを傾けて「一人反省会」を開催。その反省会のつぶやきがアップされるのを、フォロワーは毎回楽しみにしている。

東京都台東区谷中7-17-9轟天01
? 03-5842-1048