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バッグ企業レポート 協和

バッグ企業レポート 協和



 軽量で使いやすいランドセル、日本的かつ都会的なテイストと機能性を兼ね備えたスーツケース、シンプルでアクティブな印象を与えるバッグ。個性的な自社ブランドを抱え、製造から卸・小売までを手掛けているのが、老舗メーカーの協和だ。顧客視点に立った堅実な技術開発と緻密で丁寧なモノづくりで定評のある同社の現状と今後について、代表取締役副社長の古田嶋徹氏に聞いた。

ランドセル事業が売上げの約50%

 協和の創業は1948年。東京・浅草鳥越で鞄のメーカーとして誕生し、その11年後には直営店事業を行う協和バッグを立ち上げた。2013年には、不動産管理会社として1972年に設立された協和バッグ不動産部を持株会社の日本ホールディングスに商号変更している。
社員や顧客、地域を幸せにする企業を表彰する「日本でいちばん大切にした会社大賞」で審査員特別賞を受賞し、ホワイト企業としても知られている。
 東日本大震災の直後には被災地の小学生にランドセルを約1万個無償配布するなど、社会貢献事業にも注力している同社の看板事業が、売上げの約50%を占めるランドセル事業だ。創業時からランドセルを作り続け、1967年には世界で初めてクラレの合成皮革クラリーノを採用した同社は、ランドセル市場の「変革の主」といっても過言ではない。


背負いやすさ重視のランドセル「ふわりぃ」

 2007年にはランドセルブランド「ふわりぃ」をスタートした。
「人目を引くデザイン性よりも、重視しているのは軽さや機能性、安全性、快適性です。価格についても、高価格路線には走らず、親御さんが買い求めやすい価格帯を徹底して維持してきました」。
 近年、ランドセル市場ではキラキラとした派手目のデザインが人気を得てきたが、「ふわりぃ」がこだわるのは「子供のための背負いやすさ」。使い勝手を考慮し、金具や形状を吟味するなど創意工夫を重ねて、グラム単位での軽量化を推し進めてきた。
 例えばフチのないランドセルだ。イタリア製のミシンを使い、背中周りの出っ張りをすっきりさせる特殊製法が、容量を変えることなく軽量化を実現した。ほかにも、三方向から補強して型崩れを防ぐ構造、肩ひものズレを防ぎ、体へのフィット感を高めるチェストベルトの採用など、140を超えるラインナップには画期的な技術が満載だ。
 売れ筋は、軽さと容量を両立させた「グランコンパクト」や、垂直360度・水平360度の全方向での反射を可能にした「スーパーフラッシュ」。後者は反射材を型押しで入れているため縫い目が少ないなど、快適さを犠牲にしない機能性が光る。

重さ800グラム台の障がい児用ランドセル開発

 2000年からスタートした障がい児用のオーダーメイドU(ユニバーサル)ランドセルにも同社の高度な商品開発力が見て取れる。
「『もっと軽いランドセルはありませんか』という問い合わせが多く寄せられるので、調べてみたところ、低身長のお子さんや体が華奢で握力がないというお子さん向きのランドセルのニーズがあることがわかったんです。そこで、全国肢体不自由児者父母の会連合会の協力を得てモニターを紹介いただき、開発にこぎつけました」
 Uランドセルは、スタンダードな全カブセタイプ、錠前が前面に付き開閉しやすい半カブセタイプ、車椅子に取り付けやすいコンパクト型横型タイプの3種類で構成されている。重さはいずれも800グラム台。3つの基本型にオプションを組み合わせれば、それぞれに異なる障がいをカバーする最適なランドセルが可能になる。
 Uランドセルの受注数は年間200個程度からスタートし、現在は500個ほどある。拡大する市場ではないが、障がいのある子供にフィットした機能は、健常者にとっても便利で使いやすい。フロントオープンなど、Uランドセルで用いられた機能は、レギュラーの「ふわりぃ」ブランドにも一部取り入れられている。ランドセルを背負う子供の感覚や握力、使い勝手にとことん向き合い商品開発を行っている同社ならではの取り組みといえる。

ハイテクなスーツケースは「日本」イメージで人気

 新型コロナウイルスの感染拡大で現在は苦戦を強いられているものの、1985年にスタートした「HIDEO WAKAMATSU」ブランドはいまも同社の屋台骨の一つだ。
「二代目の社長(若松秀夫氏)がランドセルだけに依存するビジネスはリスクが大きいと考え、スーツケースなどのトラベルケースブランドを立ち上げました。海外の協力会社と提携し、開発からコミットして仕入れているので、メーカーに近い機能です。当時は高価格帯のスーツケースが市場の大半を占めていましたが、当社は値ごろ感を追求して2万円台で販売し、市場で支持を得ました」。
 「HIDEO WAKAMATSU」のスーツケースには、患者運搬用のストレッチャーなどに使用されている、医療用キャスターのノウハウを生かした静音車両が搭載されている。レパード柄、桜柄などデザインにもインパクトがある。ベーシックな色合いやデザインが多いスーツケース市場では異彩を放つ機能的なブランドだ。
「意識しているのは『日本』。日本人の心的なモノを大切にしたいと考えています。ランドセルの縫製技術と、スーツケースの成形機能を一つにしたソフトタイプのスーツケース『ハイブリッドバックパック』も好評ですね。浅草的な日本ではなく、ハイテクの日本をイメージしました」。


小売事業は踊り場から成長ステージ目指す

 自社ブランドを中心に販売する直営店「モンサック
は、いまターニングポイントを迎えている。この3月に直営店事業を手掛けていた協和バッグは協和に合併され、店舗数も削減されるという。トータルで20?25店ほどに減る予定だ。
 合併に踏み切った理由を、古田嶋氏はこう話す。
「グループ会社でありながら、風通しが悪かったからです。例えば、会社全体で見ればECも一つの重要な動線ですが、店舗ではどうしても店舗の売上げだけを追求しがちになっていた。せっかくメーカーから卸、小売の機能をすべて持っていながら、総合力を生かすことができなかったんです」。
 お客のニーズをとらえ、技術力や開発力を生かした商品を生み出し、各販路で適切な販売を行い、顧客満足の向上に寄与する。この目標に向けて、現在は一つひとつ店舗の現状やポテンシャルを見直している。
 二代目社長の若松秀夫氏は残念ながら昨年急逝したが、同氏が残した遺産はいまも継承されている。
「私たちが提供している商品に共通するのは、先代の社長が掲げた『元気のでるカバン』というコンセプト。ランドセルもスーツケースも持っていると気分が上がる、ワクワクする、そして何より使いやすい。そうした商品を作りたいという感覚は、全社で共有しています」と古田嶋氏は言う。
 使い手の視線に立った丁寧で真摯なモノづくり。この路線を堅実に歩み続ける同社が、今回の合併を機にどのように踊り場を抜け、新たな成長ステージに入るのか期待したい。