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企業レポート ベネクシー
 
「ビルケンシュトック」と「クオリネストの小売2本柱で、ブランド戦略進める

ビルケンシュトック専門店やセレクトショップのクオリネストを展開するべネクシー。海外の個性的なブランドの卸や靴の修理/アフターケア事業も展開している。同社はいかにして固定ファンをつかみ、ブランド価値の向上を図っているのか。同社の代表取締役社長/CEOの海野祥之氏に話を聞いた。

売上げ拡大の一方で、客単価の低下が進む

 三栄コーポレーションの子会社として、ビルケンシュトックの総代理店事業をスタートしたのが1983年。いまや「ビルケンシュトックは日本のマーケットにすっかり定着した。快適なフットウエアの代名詞とといってもいいだろう。
 歴史を振り返ると、「ビルケンシュトックは過去に2回の大きなブームを経験している。一回目は1990年代だ。
「率直にいって、あのときは単なるファッションでした。人気タレントの愛用ブランドとして話題を集め、高い人気を得ましたが、その反動もありました。2回目のブームは2015年。これもファッションとしてのトレンドでしたが、すでにブランドとして認知されていたのはよかった。いまはトレンドに走らず、ブランドの本質的な価値向上に注力しています」(海野氏、以下同じ)。
 昨年、同社はビルケンシュトックの店舗を10店閉店し、現在の店舗数は51店。閉店に踏み切った理由を次のように語る。
「2019年までは拡大路線を敷き、売上げは確かに伸びていましたが、その一方でサービスが低下していました。原因は店舗の拡大に人材の育成が追いついていなかったためです」。
 サービスが減退しているのではないか。このまま面の拡大を続けていてはブランドの足を引っ張りかねない。海野氏がそう判断したのは、ブランド成長の重要な指標とする客単価の低下やインソールやケアグッズなど関連商品の売上げ低下、修理需要の後退といった現象が顕著に起きていたからだという。
「夏冬のセールに頼りがちという傾向もありました。要するにビルケンシュトックの店舗を成立させるだけの知見を持った人材が足りていなかったんですね。利益率やロケーションも鑑みながら、知見を持った人材が集結できるよう店の集約化を図りました」。

「マイスタールーム」新設でアフターケア事業にも注力

 店を閉める一方で、昨年は新宿店の大幅リニューアルを実施。売場にレザートリートメントや金具交換、修理などのサービスを行う「マイスタールーム」を併設し、専属のリペアマイスターを常駐させている。ビルケンシュトックの強みの一つであるアフターケアの機能を集約し、前面に打ち出した空間だ。リペアマイスターが特別に施した一点物のビルケンシュトックアイテム「マイスターズエディション」も好評だ。
「ビルケンシュトックの価値を凝縮したパッケージとして提案しています。これは、将来に向けての布石でもあります。いずれは他の店舗にも導入していきたいです。現在、修理やアフターケア事業の売上げは全体の4%程度ですが、将来的には5?6%に持っていきたいと考えています」。
 店舗のリストラは、ビルケンシュトックの価値を増強する役割を果たしている。今年4月からは靴に対して深い関心や知見がある人材を販売スタッフから募り、トレーニングをスタート。修理やインスタグラムの動画制作などマルチタスクで業務を担える人材育成を進めているほか、販売以外のスタッフが販売や接客をこなすための研修も導入している。 コロナ禍により同社もまた売上げに少なくないダメージを受けているが、コロナ禍だからこそ浮上したアイテムもある。
「ビルケンシュトックのサボタイプの『クロッグ』の売上げが伸びています。元々軽いお出かけ用として人気でしたが、ステイホームのトレンドを受けて、ルームシューズとしても利用されているためです。家の中で使う履物にも良いホールド感がほしいというお客さまが少なくありません。ビルケンシュトックは家に帰ったらフットベッドに足を包んで休ませてほしいという思いから生まれたフットウエア。その意味では、いま原点回帰をしているともいえます」。
 ほかにもシューズの安定感とサンダルの軽やかさを楽しめるサンダルの「チューリッヒ」や、着物の襟合わせをイメージしてデザインし、フィット感を調整できるベルトが印象的な「キョウト」も人気が高い。

セレクト業態の「クオリネストは慎重な店舗展開を進める

 自社が持つノウハウをビルケンシュトック以外の領域でも提供していきたいと、2016年に立ち上げたセレクトショップの「クオリネスト
は、現在、渋谷スクランブルスクエア、東京ミッドタウン日比谷、大丸梅田の3店を展開中だ。
 扱っているブランドは、ビルケンシュトックのほか、フランスのベレー帽ブランドの「LAULHE(EはEに)RE(ロレール)」や、オランダのエコフレンドリーなレザーブランド「O MY BAG(オーマイバッグ)」、SGDGsに取り組むトルコのサンダルブランド「BOHONOMAD(ボホノマド)」、ソールにリサイクルタイヤを使用したミニマル・レザースニーカーブランド「O.T.A(オーティーエー)」など。いずれも量産型ではなくクラフツマンシップに根ざし、現代的な価値観を備えたブランドぞろいだ。

「店を増やしすぎたビルケンシュトックの教訓もふまえて、クオリネストの店舗数を大きく増やす計画はありません。長く親しんでもらう店にするため、店舗展開は慎重に進めていきます」。
一方、ビルケンシュトックはいま店頭で常時200種類ほどの商品を展開しているが、今後は商品のレンジを変更する計画があるという。
「SKUがやや多いように感じています。見た目にはバリエーション豊富だが選びにくさもある。一方で、細かいサイズレンジに加え、足幅に合わせた幅展開があることがビルケンシュトックの特徴であり、愛好家から強い信頼を得ている強みである。横に広がってしまっているSKU展開を抑えつつ、機能に根差した縦方向への展開を深めていく計画です」。

実店舗への送客手段してデジタルを活用する

 ECが活況を呈している中、同社もまたデジタルの活用に余念がない。ECの売上げ比率は約13%を占めている。だが、これ以上大きく伸ばす予定はないという。
「ビルケンシュトックもクオリネストも、店舗での接客を通じたお客さまのリアル体験が最重要です。デジタルを使って私たちが目指すのは、あくまでも実店舗への送客です。修理のプロセスや店頭でのフィッティングの様子を見せ、『店に行って体験してみたい』と思ってもらいたい。ワンツーワンでフィッティングの予約ができたり、販売スタッフの指名ができるといった機能の導入も検討しています」。
 ベネクシーのサイトではスタッフブログのコーナーも設けられている。梅雨時の靴のお手入れ方法、コーディネイト提案など、商品紹介にとどまらないコンテンツが多い。SNSも同様で、「送客」を軸足に据えたデジタル活用策は目を引く。
 今年3月、ドイツのビルケンシュトック本社がLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の会長兼CEOのベルナール・アルノー氏個人のファミリーホールディング会社に買収されたが、その影響はあるのだろうか。海野氏は言う。
「悪い影響はなく、喜ばしいことですね。価値を上げていくことになりますから、ビルケンシュトックにとっては良い方向に進むのではないでしょうか」。
 掲げている「カイテキ」で夢のあるライフスタイルの実現に向けて、ベネクシーは慎重に着実にその歩みを進めている。

 (株)ベネクシー
代表:海野祥之 代表取締役社長/CEO
設立:2002年5月
従業員数:301名(2020年12月末現在)
主な扱いブランド:BIRKENSTOCK(ドイツ)、LAULHERE(フランス)、BOHONOMAD(トルコ)
bleu de chauffe(フランス)、O MY BAG(オランダ)、O.T.A(フランス)
東京都千代田区九段北4-3-8 市ヶ谷UNビル 3F