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バッグ企業 エース

     「エース」「プロテカ」など自社ブランド主力に市場をリード

トップ企業に育てた3つの出会い

 1940年創業の旅行バッグ・スーツケース・かばんなどの製造卸企業である。2020年の年商は200億円であり、この分野では日本最大手といえる。エースの成長には、3つのキーポイントがあった。
 第一が、1954年に東レとの出会いによって誕生した「東レナイロンエースバッグ」である。帆布や革が一般的だった時代に、発色の良さ・軽量・強度の面で革命を起こした。
次がスーツケースを日本で初めて導入したことである。創業者の新川柳作氏はたびたび海外に視察に行っていたが、そのとき欧米の人たちがスーツケースを持っていることに着目した。「日本に導入してはどうか」と思い立ち、アメリカ企業のライセンスを獲得、日本で販売することにした。海外旅行の自由化開始と同年の1964年のことである。
最初はインポートだったが、67年に国内生産を開始、低価格化を実現した。当初は横持ちだったが、後に縦にして底にキャスターをつける形に変更、現在の縦型スーツケースへと進化させていった。
その後40年を経て、アメリカ企業とのライセンス契約を終了させ、2004年に現在の「プロテカ」ブランドが生まれた。日本製のスーツケースブランドとして、素材から組み立てまですべて一貫して日本国内で生産されている。
エポック最後が、中国への進出である。1970年代、日中親善推進委員会 中国友好訪中団に加わって上海に行った新川氏は、そこでカバンを製造している小さな工場を見た。「何とか中国に恩返しがしたい」と考えていた新川氏は、「機械を送るからうちの商品を作ってみないか」と提案したという。これがスタートとなって、現在では4社の合弁企業を持つまでになった。製品のクオリティーは高く、日本製と変わらないレベルとなっている。
「創業者は『どうしたらお客さまに喜んでいただけるのか』を基本にしていました。お客さまが喜んでいただけるものを世の中に出せば、それが買われ、利益が返ってくる。最初から儲けようという考えではなかったのです」(難波敏史 マーケティング本部 マーケティング部次長)。

コロナ禍でけん引するビジネスリュック

展開するブランドは数多いが、「エース」「プロテカ」「ゼロハリバートン」「カナナプロジェクト」「オロビアンコ」などが基幹ブランド。「アディダス」などライセンスブランドはあるが、自社ブランドの構成比が約7割と高い。
ラゲージ以外の商品ではエースが中心で、オロビアンコ、カナナプロジェクト、ジュエルナローズなどのブランドが相互補完しあうような形で配置されている。
「コロナ禍にあってトラベル関連は苦戦しており、スーツケースの売上げは2019年の3分の1になってしまいました。その中にあってけん引役となっているのがビジネスリュック。これは、テレワークになったことと大いに関係があります。家で仕事をするためにパソコンを持って帰り、週に2回くらいは出勤しないといけないわけですから、パソコンの持ち運びのニーズは高いのです」。
代表的なのが「エース ガジェタブル」だ。マチが薄いように見えるが、その割に容量が大きく、機能的にできている。電車の中で前持ちしやすく、中からモノが取り出しやすい。このガジェタブルは19年にグッドデザイン賞を受賞し、コロナ禍にあっても売上げを大きく伸ばした。
同じく「エース EVL」シリーズには「ランバームービングシステムTM」が搭載されているものがある。腰の部分のパッドが体に合わせて動くため、肩や腰への負担が軽減されるし、スーツを痛めることもない。また、夏場にリュックを背負うことで、背中に汗をかくのを防ぐ新製品の「ラパック エアV2」も登場している。
「ビジネスリュックが売れ出したきっかけは、11年の東日本大震災です。その後、スマートフォンが普及したことで、さらに両手を空けたいというニーズが高まり、需要がさらに拡大しました。前に抱えやすくなったり、操作しやすくなったりと進化しました。ここ数年は完全にビジネスリュックが主流になりました」。
女性もパソコンを持ち運ばなくてはならないが、一般的なトートバッグでは持ちにくい。そのため、ガジェタブルの女性版「スリファム」も登場している。これらビジネスリュックの価格はほぼ2万円台となっている。

コロナ禍収束で期待されるトラベルニーズの復活

直営店は各ブランドに旗艦店があるほか、フルプライス38店、アウトレット46店、オフプライス2店で、計86店舗を数える。ユニークなのはオフプライスストアで、余剰在庫やリユース品も販売する。根底にあるのは「サステナブル」の精神で、環境負荷を考えて持続可能な社会の実現に向けて貢献していくという考え方だ。百貨店・GMS・専門店などの展開数は1900を数える。
「バッグの総合メーカーとして、包括的に全方位的に展開し、最適化する」のが方針で、同じ名前の店舗でも地域によって商品を変え、ローカライズしていく。「エースの商品なら安心・安全であること」を重視しており、購入後3年間無料修理保証をしている。「50年以上にわたって製造を続けてきた自信がそこに見える。
エースは、すでにアフターコロナを見据えている。
「トラベルの復活に期待しています。アフターコロナでやりたいことは、というアンケートに『旅行に行きたい』と答えた人が多かったと聞いています。今後ワクチン接種が進むにつれ、より動きやすくなるのではないでしょうか。事実、スーツケースの売上げも伸びてきていますし、下期には期待できると思っています」。
もう一つ考えているのが、「ライフスタイル化」だ。トラベルは世の中の情勢などの外的要因に弱い。バッグだけでなく、人々の移動をサポートする周辺の商品も販売していこうというものだ。こちらも、少しずつ開発が進んでいる。