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バッグ企業 ソメスサドル

北海道で“馬具”発のかばんメーカー。ライフスタイルに沿った革バッグに存在感

開拓時代の馬具が発祥。世界に通用する馬具製作

明治期の北海道開拓時代。馬は農耕を営む上で、人々の生活に欠かせない存在だった。当時は道内に多くの馬具職人が存在し、それぞれの地域ごとに馬具や鞍などを製造していた。
昭和に入り、北海道各地にあった炭鉱が、徐々に閉山を余儀なくされるなか、その代替産業のひとつとして“馬具”に注目が集まった。行政政策として、道内に点在していた馬具職人や革業者などが一同に集められ、輸出産業として北海道発の「馬具」が製造されはじめたという。
1964年に創業した「ソメスサドル」は、国内でも馬具と革かばんのメーカーとして、屈指の技術力を誇る。現在も国内外の競馬騎手の鞍を手がけており、宮内庁にも馬車具を納入している。
創業当時から「世界に通用する馬具をつくる」を企業理念に掲げ、職人たちは分業制ではなく、ひとりで一貫して製造できる技術力があるのも大きな特徴だ。

革選定から縫製まで丈夫さと安全性追求

ソメスサドルは、かつて空知(ルビ:そらち)炭鉱があった歌志内(うたしなし)市で創業。現在は砂川市の1万uの敷地内に、北欧調建築の本社社屋とファクトリー、ショップなどがある。直営ショップは、砂川ファクトリー店、新千歳空港店、東京都内では「GINZA SIX店」や青山店など全国に計6店舗を展開。他にも全国の主要百貨店、専門店などで広く扱われ、根強いファンも多い。
「馬具は、人と馬の両方の“命を預かる”道具です。人にも馬にもストレスをかけず、丈夫さや安全性を考え抜かれていることから、馬具とは革を使う製品の究極的な姿ではないかと思います。堅牢度の高いタンニン鞣しの革を選び、使用中に切れたりほつれたりしないよう、糸止めや当て革などに細心の注意を払います。二本針での手縫い部分も多く、カバン作りであれば『ここまで必要?』と言えるほどの強度で作られます。それが馬具づくりから始まった私たちのルーツであり、強みともいえます」(営業部・鳥屋浩巳部長)。
北海道の輸出産業であった馬具だが、為替問題などで国内へとマーケットをシフトせざるを得なくなった。それが自社ブランド「ソメスサドル」が生まれるきっかけとなった。

「絞り」の技術を生かし新しいバッグにチャレンジ

砂川ファクトリーで働くのは、20代から50代までのおよそ50名の職人たち。東京支店などを入れると、計120名ほどの社員を抱える。地元採用だけでなく、ソメスサドルの企業ミッションに共感した若い人たちが、全国から入社してきている。
自由闊達な社風のなか、このコロナ禍の中で新しいチャレンジもスタートした。初めてのクラウドファンディングが立ち上がり、今まであまり製品では使われていなかった“革の絞り”を使ったPCリュックを企画する。
「緊急事態宣言下で来店客が激減し、今までと違う販路開拓をということで、クラウドファンディングに初挑戦することになります。ソメスサドルらしい製品とは何かを自問自答するなか、社内に古くから存在していた“絞り”の技術に行きつきました」と、企画に携わった営業部オンラインショップ店長の川崎普範さんは話す。
“革の絞り”とは、革を立体的に成形する技法のことで、濡れたヌメ革を木型にはめ、プレスして成型する。最近は労力と手間がかかり、製品もペンケースやトレイなどで新鮮味がないことで、敬遠されていた。
「今回は今のライフスタイルに合う『コミューターバッグ』というパソコン収納リュックを作ることにしました。先人たちの技術を参照しながら生まれたリュックに対しては、最終的には800万円を越える支援が獲得できました。一個15万円という高価格でありながら、絞りによる滑らかでスタイリッシュなシルエットが、今までにない斬新なデザインとして支持されました」(川崎店長)普範さんは話す。


インテリア雑貨や家具とコラボレーション

最近では「ドムス」というリビング雑貨も手がけている。コロナ禍の中で増えたおうち時間を楽しんでもらうために、デスクマットやティッシュカバー、スリッパなどの“革と暮らす”をテーマにした雑貨にも力を入れる。
 北海道・旭川市にある家具ブランド「カンディハウス」とは、革を使ったコラボレーションチェアを企画開発。手縫いの革ソファは、長く愛せるシンプルなデザインに堅牢さも兼ね備えた、北海道らしい佇まいとなった。
「ソメスサドルには、連綿と続く北海道の開拓精神が息づいています。大自然と共に暮らし、コツコツと努力する北海道の気質はものづくりに向いています。この土地だからこそ生まれる製品に、私たちの誇りを伝えたいと考えます」と鳥屋部長は語る。