今月の記事・ピックアップ 2021・12
 HOME > フットウエアプレス >  新社長インテビュー 春田 勲氏(ハルタ代表取締役)
新社長インテビュー 春田 勲氏(ハルタ代表取締役)



機械による量産生産でアドバンテージを確保

――ローファーで成長してきましたが、製造は難しい商品ですか

春田 創業から100年を超え、ローファーを作り始めてすでに70年になります。ローファーはインデアンモカシンといわれ、本来はハンドソーン(手縫い)で作られていたものです。これを専用のラインを設け、均一的に機械による量産生産ができるところは、ほかにはないと思っています。
最近は価格的にはさらに下を行く商品はあります。また、品質の面でもかなり近いものを作る所もあります。ただし、パーツが多く、天然素材を使った靴は、同じモノを作るためにはすり合わせの技術が求められますが、そこに当社はアドバンテージを持っています。

――中国に現地法人を設け、日系の百貨店に出店したほか、皮産連による上海見本市にも参加していましたが

春田 当社の場合、少子化で学生が減少していくことに、早く影響を受けていることもあり、新たな市場開拓を海外に求め、2010年に上海事務所を設け、小売展開をしてきました。同時にブランディングを目的に、現地ニーズをとらえたモノ作りを、クイックに行おうとしていましたが、尖閣問題で撤退を余儀なくされました。現在は現地の代理商を通してネットを主力に販売しています。

オン・オフ兼用の靴でマーケットに浸透

―コロナ流行前の国内では、インバウンド需要もありました

春田 インバウンドはある程度の追い風になりました。中国の女子大生が日本にきて、街中で女子高生の制服を見て、同じようなオシャレな格好をしたいと、原宿あたりで制服を購入し、靴はハルタのローファーを買うということがありました。このコスプレがSNSに挙げられ、ここからコスプレイヤーのコミュニティーに広がっているようです。
 中国のインフルエンサーが、お店でTVショッピング風に、スマートフォンを通して商品宣伝をしてくれるようなこともありました。多い時は、3時間の配信で40足ほど販売してくれました。インフルエンサーを信頼し、信頼関係を大切にする国民性だからできることで、コミュニケーションもデジタル・テクノロジーを通してという形に代わってきています。

――国内マーケットの新規開拓については    

春田 国内マーケットの開拓では、学生靴でハルタとの接点を持ち、認識されていることから、これを一生涯付き合ってもらえるよう、?スクールハルタ≠ゥら?大人ハルタ≠ヨつなげていく取り組みをしています。
ローファーの製造技術を、トラッドシューズを作ることにも向け、「ハルタ」という長年培ってきたブランドの強みを最大限に生かし、マーケットを広げていく考えです。ここで提案しているのは、オン・オフの両シーンで履けるような、カジュアル寄りのトラッドシューズです。


体験価値を高め長く付き合える靴に

――駅ビルなどに直営店を出店していますが

春田 店舗は、こういった雰囲気で、こういうデザインの靴を、こんな値段で売っています、という、ブランドの世界観を演出する空間が必要であろうということで出店しました。また、顧客目線でブランディングするには、お客さまと触れ合える、タッチポイントの場所がどうしても必要であろうということです。
 現状では9割が?大人ハルタ≠フ靴が売れており、購入カードで見ると、22歳から25歳が主力客層の年齢です。仕事の後の女子会にそのまま履いていっても恥かしくない、休日のデートでもOKといった、オン・オフ兼用で履ける靴として買われています。国産では低価格といったバリューは見いだせないが、オン・オフのライフスタイルの中で、使用頻度の高いことが付加価値となっています。

――コロナ流行の中で、どこもウエブ販売に力を入れるようになっていますが。

春田 実店舗でのコミュニケーションが軸ですが、これをさらに深めるためにデジタルのテクノロジーを活用しています。ここで来年の春にはOMOのサービス導入を計画しています。オンラインで購入した靴のサイズが合わなかったときに、実店舗で交換ができるとか、実店舗になかったサイズが、ハルタのオンラインのほうに在庫があれば、その場で支払いをしていただき、商品は家のほうに送付されるといった、オンラインとオフラインの融合を考えています。

――現在、国内4ヵ所に生産拠点がありますが、今後もこの国産を守っていきますか?

春田 これまでローファーを中心に、4工場が同じような靴を作ってきましたが、各工場が特色を持つことが求められており、最近では革と人工皮革を使った靴で工場を分けていますが、さらに細分化する必要を感じています。
モノ作りにおいては、安くていいものから、付加価値を付けた「ハルタ」ならではの体験価値を載せたものにしていくことを考えています。国産というメリットを生かし、カスタムオーダー会を開きましたが、ここでは、当社の伝統的な靴の「スポックシューズ」で、グリーンや赤色の革を使ったオーダーがありました。こうしたことが、我々が最終的に目指している顧客の体験価値を高めることになり、長く付き合えることにつながっていくと考えています。