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日本皮革技術協会 環境対応革開発実用事業報告会

講演

 「皮革産業は本当に環境に悪いのか?」

講師:吉村圭司氏(皮革産業連合会事務局長・日本皮革技術協会副理事)

畜産業の実態を知らないファッション&マスコミ

本日は、「皮革産業は本当に環境に悪いのか?」といったテーマでお話をしたいと思います。
昨年10月31日〜11月12日まで、スコットランド・グラスゴーでCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締結国会議)が開催されました。そこにデザイナーのステラ・マッカートニーが出席し、英国のチャールズ皇太子に、ファーの取り扱い禁止を呼びかけました。併せてファーに代わるサステナブルな新素材を提案しました。ただし、チャールズ皇太子は皮革がサステナブルであることをよくご存じで、重要な産業だと理解しており、そういった発言もしていたようですが、残念ながら一般紙やファッション紙には出てきません。
モデルのマリエさんも最近の紙面で次のように発言しました。「畜産界の大きな問題として、食用として育てられる動物の外身は捨てられ、一方、バッグや靴のために育てられる畜産は、中身が捨てられている」と。何も理解していない発言ですが、ファッション紙では何も検証されずに掲載されています。
バングラデシュのタンナーの現場レポート記事が、ネットに出ています。そこでは、動物の皮や毛皮から作られた衣服に「自然」はない。ウール、毛皮の生産は、毎年何百万匹もの動物に苦痛をもたらすだけでなく、気候変動、土地に荒廃、公害、水質汚染に寄与している、と書かれています。


皮革生産に対する間違ったネガティブキャンペーン

こうした皮革産業や皮に対するネガティブキャンペーンはいろいろありますが、そこでは、皮を取るために動物をと畜しているというものです。また、原皮の供給と森林破壊を結び付けるものもあります。グリーンピースは、世界の大手ブランドと自動車産業が革を使うために、アマゾンの森林を伐採し、畜産業を興している、といったことを報告書に書いています。この問題は大きくて、ヨーロッパでは熱帯雨林の破壊につながるモノは、皮革を含めて輸入しないというようになっています。
加えて、最近よく言われていることに、牛のゲップなど家畜の飼育時に発生するメタンに関する問題があります。本来、人が食べられない植物を家畜が食べて、人が食べられる肉となる、ということで家畜が行われてきました。それが牛のゲップに結びついています。
クロムなめし革では、無害な3価クロムが使われている事実にも関わらず、6価クロムでなめしているとか、革の中には多量の6価クロムが含有されているというように宣伝され、革が有害であるといわれています。
さらに、皮をなめすときに有害化学物質で処理され、汚染された多量の水や廃棄物が出ている、といったものもあります。しかし、日本を含めてほとんどの国の製革産業は、排水処理や廃棄物の処理はきちんとしています。ただ、発展途上国などで対応していないところがあり、それがネガティブキャンペーンに使われているのが現状です。


SDGSやリサイクルに業界各社が取り組む

今後の皮革製造については、皮革産業全体で廃棄物を無くさねばならないと考えています。
SDGSに関しては、何ができるかを考えていくべきです。
例えば、革の端の部分は最後まで使わなので、そのまま廃棄物になります。だったらなめす前にカットして、その段階でコラーゲンやゼラチンにしていけば、この段階で再利用されて、より付加価値の高いモノになります。
 皮の面積がその分小さくなり、処理重量が減ることで、水や薬品が減り、エネルギーの削減にもつながります。また廃棄物も削減できます。
使用水量の削減にも取り組むことを考える。ここでは製革工程を見直し、水を減らしていくことを考える。また、リサイクルできる水は、できるだけリサイクルする。ほかには流水水洗をやめるとか、ドラムを新しいものに代えるという手段もあります。
環境に配慮した皮革製造ということでは、クロムを使うことが攻撃されたいるので、6価クロムが発生しないようなクロムなめしを考えるべきでしょう。
その他には、環境に対する認証取得も、ネガティブキャンペーンに対してはいいかもしれません。LWG(レザー ワーキング グループ)を取得するのもいいかもしれない。日本エコレザーの認証取得もいいでしょう。

革の認定基準の更新と企業のサステナブル認証

ここで、皮産連からの提案があります。これは今取り組んでいることですが、日本エコレザーは革の認定とし、この認定基準を更新します。今まで、一般化学薬品まで出してもらっていましたが、そういったのは省きます。認定基準を一部変更し、もう絶対に出てこないPCPや水銀などは掲載しない。その代わりにノニルフェノールなど、世界で有害物質に措定されているものを加えていきます。
また、全ての認証を取るのは大変ですから、ブロンズやシルバーというように、ランク分けをしていきます。
もう一つは仮称ですが、企業のサステナブル認証を設けます。これは日本版LWGで、例えば3項目ほどの目標を立てて、毎年その成果報告を出すことで、何に取り組んで来たかを示し、企業を積極的にPRしていく。
同時に、企業の環境評価もします。ここでは社会的責任、労働問題、人権問題、地域のコミュニティへの参加がある、など企業の社会的責任も考慮します。もちろん、製造の段階で有害化学物質は使わないことは重要です。
このサステナブル認証は企業が取得するが、製革業者だけの問題ではなく、皮革のサプライチェーン全体が取得する必要があります。製品メーカー、問屋も含め、皮革のサプライチェーン全体で環境に優しいですよ、といった体制にしていきたいです。



講演

合成タンニン、植物タンニンが使えなくなる?

講師:中村泰久(エトールナカムラ)

ビスフェノール類の含有量10PPM以下に

なめし剤として使われている薬品ビスフェノール類が、リーチ規制(化学物質に関するEU法)によって、革および革製品への含有量が10PPM以下にすることが求められています。
 ビスフェノール類は、革製造に関わる大切な薬剤で、ビスフェノールSは、合成タンニン剤に濃度0.01%〜3.5%の範囲で含有されています。ビスフェノールFは合成タンニン剤に0.1%〜0.8%の範囲で含有されています。また、亜硫酸化などで処理された植物なめし剤には、かなりの量のビスフェノールSビスフェノールFが含まれています。
今回のビスフェノール類の規制は、安定性や強力な鞣皮性といった、革作りに根幹を揺るがし、革の販売に大きく影響を与える規制となっています。

代替え薬品はなく革製造に大きく影響

残念ながら、現在の知識、知見では、ビスフェノール類の含有量を有意に減量する固定剤、捕捉剤、水洗方法はありません。
ビスフェノール類の規制値が200PPMになっても、化学薬品製造会社は現在の方針を大きく変える可能性があり、革の製造は大きな転換を迎える結果となります。 
TEGEWAやCOTANCEは、ビスフェノール類の規制に対して強い懸念を表明し、各国の皮革関連団体に意見書を出すことを求めており、日本タンナーズ協会も2021年12月に意見書を提出しています。