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東京レザーフェアを主催する資材連は、これからの時代に生き残る会社のつくり方をテーマに、「TLFリーダーズセッション」と題したセミナーを10月から毎月開催している。第3回はTLF開催当日の12月8日、同会場で「モノづくりのリアル~簡単じゃない時代にヒントを見つける~」のタイトルで開催した。講師はマザーハウス代表取締役副社長の山崎大祐氏。 途上国から世界に通用するブランドをつくるマザーハウスは、バッグ、ジュエリー、アパレル、チョコレートをつくって売っている会社ですが、他社と違うところが3つあります。まず、ファンドなどの資金が入っていないことです。17年前に、山口絵里子社長と私の2人で立ち上げ、250万円の資金でスタートしました。そこから現在、世界に900人の社員がいる会社になりました。 次に、素材の入口から販売まで一貫して自社で行っていることです。卸をやらず、グローバルに50店舗を展開し、販売も自社で行う。900人のスタッフのうち、派遣社員は一人もいません。このように垂直統合を行っているのは、珍しいと思います。 最後が、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」「途上国の可能性を開花させる」ことを目標にやってきたことです。 マザーハウスは、2006年にバングラデシュで創業し、バッグをつくり始めました。工場のコンセプトは「第二の家」で、今320人ほどが働いています。09年にはネパールに進出しました。カシミアやウールの素晴らしい素材があったからです。 15年にはインドネシアの技術を使ってジュエリーをつくり始め、16年スリランカでもジュエリー工房を立ち上げました。18年からは、インドで伝統のカディ(手紬、手織りの布による服)をつくり始めました。20年にはパリや香港にも出店しました。 2020年、コロナ禍の影響もあり、バッグが売れなくなり、会社はピンチとなりました。そこで日本のスタッフたちと議論を重ね、家の中でも楽しんでもらえるように「リトルマザーハウス」というチョコレートブランドを立ち上げました。これは成功し、東京・銀座の真ん中にお店も併設したチョコレート工場を作りました。今できることを全力でやりました。 お客の価値観は変わり多様化しているこれまで会社を経営してきて思うことは、「正しいことをしながら継続的に利益を出すことが本当に難しい」ということです。だからこそ、「ウォームハート+クールヘッド」(熱い情熱と冷静な思考)であることが求められます。最初に「これが正しい、やるんだ」と決めてから、頭を使って冷静に考える。今までは、どこかに置けば売れていきました。でもこれからは、お客さまのことを理解しないと難しい。価値観が多様化しており、モノは価値観を体現するものだからです。商流が変化し、ビジネスケールが大きく変わってきたのです。 「アンティークスクエア バックパック」というレザーのバックパックをつくりましたが、これが大ヒットし、レザーのバックパックの先鞭をつけることになりました。発売したときは、「これで会社に行く人なんかいない」といわれました。でも、そのスタイルが今では普通になりました。価値観が変わり、身に着けるものも変わってきたのです。買う場所も変わり、お客さまと商品がダイレクトにつながるようになりました。 「最高」「最愛」しか生き残れない次に「会社が生き残るための視点」を考えていきたいと思います。これからは「最高」「最愛」しか生き残れない。「最安」、安くてもたくさんは届かない。自分の欲しいモノだけを買うからです。誰にとっての「最高」なのか、「最愛」なのかということです。「最愛」というテーマもあります。最高でなくても、ファンはつくれる。最愛の会社になるには、どうしたらいいのでしょうか。 人は情報をまず大脳に入れて、それから海馬と偏桃体というところに入れます。海馬は情報を記憶し、整理する場所です。偏桃体は「何となくイヤな場所だな」などのような感情記憶を整理するところ。人は情報と感情を整理し、大脳新皮質に記憶します。 大事なのは、情報記憶と感情記憶に残るブランドがこれから生き残っていくということです。 私たちは、コロナの時期に「RINNE」というブランドを立ち上げました。使い終わった自社のバッグを回収、解体して使えるレザーやパーツを再利用してバッグをつくりました。コロナ禍でみな断捨離を進めたため、このタイミングだと始めたのですが、回収したバッグは簡単には壊れず、最初は大赤字で大変でした。今では黒字化してオペレーションもちゃんとできるようになりました。 WHYに立ち戻ったから誕生したチョコレートブランド次に「HOWではなくWHYにこだわる」ということです。例えば、何のために私たちのブランドが存在するのか。途上国から世界に通用するブランドをつくるためだったら、チョコレートでもいいではないか。バッグにこだわっていたら、チョコレートのブランドはつくれなかったでしょう。お客さまとのつながり方だって、お店がだめならと、オンライン上でいろいろなイベントを行いました。 WHYを明確にし、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」理念を3つに分解していくと、「途上国にある素材・人材・技術の可能性に光を当てること」「日本から世界で戦えるブランドを作り出していくこと」「ブランドたるモノの売り方を見つけ、実践していくこと」となりました。 マザーハウスは1年目に600個のバッグをつくったのですが、全然売れなかった。同じ業界だけでなく、他業界の友人たちとも「なんで売れないんだろう」と議論しました。その時、卸と自社ECだけで売っていて、「お客さまと会ったことがない」ことに気づきました。そこでオンライン上で購入してくださったお客さまを集めて「サンクスイベント」を開催しました。参加費を5000円いただきましたが、お客さまから「思いが届いている」「ありがとう」といわれ、頑張れました。このイベントは今でも行っています。 小さな物語こそが継続のエネルギーに1枚のシリア難民の子供の写真がドイツの世論を動かし、難民の受け入れに大きく傾いたように、人は感情の動物です。「伝わる」ことを考えたとき、正しさでは動かない。だから感情をデザインする。私たちはともすれば「こんなにいいものをつくっている」と自分たちが主語になってしまう。知識がどんどん専門的になればなるほど、伝わらなくなってしまうのです。小さな物語こそ継続の力なのです。今はSDGsなど大きなテーマが多い。でも、日々の小さな物語がエネルギーになる。みなさんの小さな物語は何でしょうか。 Be Optimistic、楽観的であれということです。Optimusはラテン語で挑戦することを意味します。それぞれに挑戦があり、アセットがある。自分はもっと成長できると思ってほしいです。挑戦した人だけが、楽観的になれます。
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