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バッグ小売レポート 池のや(岐阜・多治見市)

東海地区を中心に5業態12店展開。PBと国産ブランドのみで構成


4代目社長が引き継ぐ130年の老舗バッグ店

1895年(明治28年)創業の「池のや」(岐阜・多治見市)は、現在「J-Bag(ジェイバッグ)」「ApooL(アプール)」「groove(グルーヴ)」などの業態で、東海エリアと「トレッサ横浜」に計11店舗を出店している。メイド・イン・ジャパンのバッグや靴を中心に、個性的な品ぞろえで数多くのファンを魅了してきた老舗専門店である。
2025年には創業130周年を迎えるが、昨年、40代の宮島泰助氏に社長を交代し、4代目として歴史ある池のやを引き継ぐこととなった。
「IKENOYA」本店が位置するのは、JR多治見駅から土岐川へと延びる「ながせ商店街」の中。昔ながらの街並みも残しながら、最近ではおしゃれなカフェや雑貨店なども集まり、焼き物の街ならではのマルシェやイベントも盛んなレトロなストリートだ。
この通りにかつて、初代の宮島兼松氏が池野村(現在の愛知・犬山市の一部)から移住し、履物屋を起こしたことが事業の始まり。出身地の名前を取って、屋号を「池野屋」としたことが現在の「池のや」のスタートとなる。
最初に履物店として創業した池野屋は、いまも創業当時と変わらない「ながせ商店街」の中にあり、バッグと靴を扱う「IKENOYA」として営業を続けている。



SC内で話題を集めたジャズバー風店づくりで

3代目社長の宮島敏明氏が、「アピタ多治見」内にバッグ専門店「アバンギャルド池のや」をオープンしたのが1985年。同店が履物店から業態転換した、初めてのバッグショップとなる。
1998年には「アピタ名古屋北店」に、今に連なる「J-Bag」の1号店を出店した(5年後にJ-Bag熱田店へ移転)。当時は、80年代からのライセンスブランドが少しずつ落ち着きはじめたころで、ものづくりの国内回帰もあって、PB(プライベートブランド)が盛り上がりつつあった。そこに着目し、“すべてメイド・イン・ジャパンのブランドで品ぞろえする”という、それまでの店舗開発にはなかった画期的なラインアップが注目された。
現在の「J-Bag」は、名古屋北店、長久手店、熱田店へと出店していく中で、徐々に確立されていったスタイルである。
 2006年には、「イオンモールナゴヤドーム前」に、新たな業態「groove」のナゴヤドーム前店を出店。ジャズバーを模したムーディーな店づくりを意識し、本物のドラムセットやグランドピアノ、ウッドベースが並ぶ本格的なステージまで設置した。核ブランドとしてバッグは「ビースタッフ」や「レガロ」、靴では「ラボキゴシ」などのレディスブランドを据えた。オープンした当時は、バッグショップとは思えない斬新な店づくりに、業界内外で大きな話題となった。
「父が社長をしていた80年代から平成の時代には、イオンモールなどの大型商業施設内に店舗を拡大してきましたが、池のやが長く大切にしてきたのは、〝お客さまに悦んでいただくこと〟という、先代から続いてきた原点です。これまで連綿と培ってきた〝商店街が商売のはじまり〟という先代から続いてきた原点です。お客さまと培ってきた、濃いつながりは忘れないでいたい。出店を続けてもその原点の想いは忘れず、自分の代になっても〝財産はお客さまとスタッフ〟ということを、改めて肝に銘じていることです」と宮島社長は話す。

茶道から教えられた美しく見える売場作り

 泰助社長の兄弟は、革バッグのものづくりの世界に入って、オリジナルの「池野工房」を立ち上げた。昨年、岐阜・可児市に新しい工房も設立し、「Lampi」(フィンランド語で「池」を意味)というブランドもスタートさせている。使い込んで味の出るタンニン鞣しの革を使った、ジェンダーレスなラインアップは、池のやの各ショップにコーナー展開されている。
 泰助さんは昨年6月から「茶道」を習い始めている。きっかけは昨年1月、近所の方が本店奥のイベントスペースを、お茶会の会場として使ったことが縁という。最初は型を覚えることで精一杯だったが、続けることで自分の所作の変化を感じてきたという。
「例えば茶道には、相手の目線にたった受け渡しなどの型があり、一つひとつが実はとても合理的なのです。店内のしつらい、おもてなしなど、どうすればもっと美しく見えるか、ということにも気づきました。売場作りにおいても、見やすくて取りやすいディスプレイは? ということを考えるきっかけにもなっています」。
今後の経営については次のように話す。
 「私の代になって、経営面を何か大きく変えるということではなく、お客さまが『この店とお付き合いして、人生が幸せだと思ってもらえる店』になるというのが根本の想いです。単にモノだけを売るのではなく、〝コミュニティや文化〟が生まれること。お客さまも自分たちも豊かになることは一体どんなことだろうと、日々新しい視点で考えています」。
 ナゴヤドーム前の「groove」店に置いてある楽器たちは、調律をして実際に弾けるという。「一度即興でピアノを弾き始めた方がいました。お客さまからも『ライブはされないのですか?』と声をかけられるので、いつか店で本物のジャズライブをしてみるのもいいかも」と泰助社長はいたずらっぽく笑う。