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バッグ小売店 イデーキャラント(東京・世田谷区)

30年間地元顧客から支持されるバッグ主力のセレクトショップ

商店街の中の角地に立つ黄色が目立つ路面店


小田急小田原線の千歳船橋駅前から、稲荷森稲荷神社の前を伸びる商店街を進んだ角地に「イデーキャラント」がある。店頭のオーニングテントや両サイドにあるウインドウガラスの枠に加え、店舗前には車除けの役割を果たしている消火栓まで、すべて明るい黄色が塗られており、周囲からはひときは目立つ店である。
 店舗がオープンしたのは1994年、今年の12月で30年になる。オーナーの市川和男さんが40歳の時に独立してオープンさせた店である。
 「この30年間に商店街は様変わりしており、物販で生き残っているのは当店だけという状態で、飲食店以外はコンビニなど大手チェーンの店舗に変わっています。23区の世田谷の中にあるといっても厳しい状況で、ここ10年ほど前から変わってきている」と市川さんは話す。

地元の上顧客を大切に高単価な商品を販売

 「イデーキャラント」が30年間、営業を続けてこられた背景には、オープン当初からバッグを主力にアパレルや靴も加えた、複合スタイルのセレクト業態で販売してきたことで、固定客を増やしてきたことがある。また、住宅地を背景に、地元客が気軽に立ち寄れる路面スタイルの店づくりも好影響していそうだ。
 現状のアイテム別の売上構成比は、バッグ・革小物50%、アパレル35%、靴15%というもの。主力のバッグ・革小物は国産とインポートで構成している。国内商品では大手卸の商品はなく、工房やデザイナー兼職人が作る商品が主力になる。この中には、市川さんの描いたデザインを採用して作られたリュックも並べられている。
 20年ほど前から扱うようになったという欧州製のインポートバッグは、日本ではできないような素材や作りのものをセレクトしている。折り紙のように、一枚に革を裁断することなく作られたバッグなど、市川さんのセレクトで仕入れている。4万から5万円台のバッグが多い。
 シューズはスニーカーの「パトリック」のみ扱っている。パンプスを置いていたこともあったが、今はパンプスを聞かれることもなく、スニーカーのみで十分だという。
「60代後半の女性でも白のハイカットを買われます。サイズのある靴は、在庫負担にならないよう1サイズに絞って並べており、ほかにサイズについては、毎週送られて来る取引先に在庫を見ながら対応しています。古くからのお客さまが多く、取り寄せでも待ってもらえます」。
 アパレルもオープン当初から扱っており、Tシャツやシャツなど1万~2万円クラスの、デザインやプリントに特徴のあるトップスを販売している。
 「アパレルは着心地が良いと、買われたお客さまは、必ずその商品のファンになります。バッグと違ってシーズン性があり、次の新しい商品が入れば購入してもらえます」。


普通のものでは満足しない革に理解のある顧客を育てる

品ぞろえの基本的な考え方は「安い価格の商品は扱わない」というもので、地域密着の売場として、オープン時から上質な顧客を育てている。「価格の安いものはそれなりの作りだろうし、そういった商品を扱うことで、値段の安い方に引っ張られてしまう」と考えるからだ。
「バッグは基本的には1万円以下の商品は置きません。品質に見合った値段を付けていますが、商品を手にしたお客さまが、予想する以上の価格で〝いい値段だね〟と思われるような商品を扱っています」。
このように提供する商品には自信を持っている。後染め革の、ユニークなインポートのバッグなど7万円ほどの値付けだったが、インスタグラムに載せた翌日には買われるなど、同店の顧客は普通のものでは満足しないという。
 30年にわたって、特徴にある革の上質なバッグや革小物を扱い、地元の顧客層を作ってきた「イデーキャラント」だが、世代の違いによって、革に対する認識が変わってきたており、若い人には革の良い商品が売りにくくなっているという。
 「売場で革の価値観など説明をしても、最近の若い子は関心を示してくれません。先日もおばあさんとお孫さんが一緒に来店され、おばあさんが選んだ革の財布を、お孫さんに買ってあげていましたが、お孫さんはその財布の価値が分からないようでした」。
 これまで、同業8社でインポートバッグの共同仕入れや情報交換をするグループを作っていた。しかし現状では「イデーキャラント」しか残っていないという。小型に個店にとっては厳しい環境下にあるが、同店には今も有効なDM名簿が800人分あるという。こうした顧客が立ち寄るうちは、店を続けると話す。

東京都世田谷区桜丘2-19-14
TEL:03-5477-0206